詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
爪からこぼれる蜜の香りは
やさしく手毬に
塗り込めましょう
今宵
千切れてしまう羽はいくつ
枯れてしまう草木はいくつ
夜露は静かに
鏡となって
子守唄がにじみます
いつわりの片鱗もない
雲の晴れ間に
うつつは
遙かの遙かに於いて
いにしえを
とこしえの名で包みます
それゆえに此処は
まどろみの
始まりのような
まぼろしと呼ぶには
あまりにもあざやかな
断崖の渕なのかも知れません
誘われるがまま
微熱をさすらって
醒めてしまえば
不治の病はすすんでゆきます
ゆっくりと
ほら、
ゆめのうわずみは
てのひらにつめたく
そのたびに
胸は
かろやかにうるんで
微笑みが透けて昇ります
幾つでも
いつまでも
誰のものでもないそらに
誰のためでもなく
残り火たちは
ひとつの舟を浮かばせて
つぎなる潮の運びの波間へ
消え去りゆくのです
美味なる淡さを
絶やさずに