詩人:おかだまい | [投票][得票][編集] |
ばあちゃんは
でっかいでっかい家に
たったひとりぼっちで
暮らしている
じいちゃんは
脳味噌がツルツルになっちゃって
ばあちゃんのこと
忘れちゃって
全部忘れちゃって
自分の名前しか知らない
しま猫のボンは
もう一か月も帰って来ないらしい
きっと来るときが来たんだと
ばあちゃんは言ってた
それで
とっても寂しいんだと
作り笑いでそう言った
僕のために作ってくれた味ご飯は
昔と全然変わってない
ばあちゃんの味がした
ちょっと甘めのばあちゃんの味
ごちそうでなくて悪いねって
気まずそうに笑ってるけど
ばあちゃんが一生懸命作ってくれたこと僕は知ってるよ
だけどなんか恥ずかしくておいしいって素直に言えなかった
僕の大好物だから作ってくれたんだよね
僕のお土産のアイスクリームを
ばあちゃんは固いって言いながら全部食べてくれた
冷蔵庫にはジュースがいっぱい入ってた
帰り際には
畑でとれた野菜を
袋いっぱい詰め込んで
それでも足りないだろうって
また畑に走っていって
仏壇のお菓子まで全部詰めてくれた
少ないけど電車賃の足しにしてと
用意してあった小さな袋には
体に気をつけてとえんぴつで書かれていて
僕は素直に受け取った
しわくちゃの千円札が五枚入っていた
僕はばあちゃんの毎日を知らない
ばあちゃんが好きな物を知らない
ばあちゃんの年もわからない
誕生日も知らない
下の名前も曖昧だし
だけど僕には生まれた時からばあちゃんで
これからもずっとばあちゃんで
たった一人のばあちゃんだから
だから
ばあちゃん
どうか長生きしてね