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理恵の部屋  〜 投稿順表示 〜


[132] 大輪の花を咲かせて
詩人:理恵 [投票][編集]



気がついたら蕾ができていた。
ぼくは知らない、それがまだ種だった頃のこと。


って言ったら、近所のじいちゃんが
そりゃあ種じゃないさと笑ってた。


じゃあなんなのさとぶっきらぼうに返したら
そりゃあ球根さと笑うじいちゃん。


そうかそうか、もの知りでいいな。


次の日見たら、その蕾は
ちょっと色濃くなっていた。


なんて言ったなら
またじいちゃんはがははと言って
気のせいだと笑うだろう。


またまた次の日見たてみたら、
先っちょがほんの少し赤い気がした。


気のせいか?
ほんとうか?


もうぼくにはわからない
けど、その花は
確実に開くだろう?


って言ったら、近所のじいちゃんが
そりゃあそうさと笑ってた。


そんな濃厚な緑で顔赤らめる
そいつのその先も、ぼくは知らない。


けどもしも明日見たら、
また違うそれが見れるだろう?





2019.11.25.

2020/05/05 (Tue)

[133] 紙ヒコーキ
詩人:理恵 [投票][編集]



その子との出会いが
始まりだった


正方形の薄い紙から
折って広げて、また折って


できた! って何喜んでるの!
元の私じゃないじゃない!


勝手に私を作り上げて
窓の外からポイッ


不安定に揺れて
いつ落ちるかわからないのに
あの子は楽しそうに笑ってるから


そうかそうか、
ならやってやろうじゃないの!


薄っぺらの翼でだって飛んでやる!
どこへ向かうかはわからないけど
尖ってなきゃやってらんない


空を切って
強い風が吹いたなら
流されたりなんかしない
とことん利用してやるの!


あの聳え立つ入道雲から
地獄みたいな雨が降り注いで落ち込んだって
また太陽が乾かしてくれる


そうやって飛んでくの
これが私が生まれたかたちなの!





2019.11.25

2020/06/06 (Sat)

[134] フィンセント
詩人:理恵 [投票][編集]



彼は描き続けた
たった一つの答えを探して


時に黄金の大地を知り
時に佇む緑に心を奪われ
時に同じ絵に何度も挑み
時に白い部屋から顕(あらわ)す術をさがして


彼から溢れ出るそれを
狂気だと誰かが呼んだ


時に自分の力を信じて
時に自分の顔と向き合って
時に友と路を分かち
時に森の中の木に触れて


彼から溢れ出るそれを
炎だと誰かが呼んだ


やっと見つけた光を拒まれても
譲れない気持ちを持っていたんだ


だから私はそれを見つめてる
今は額の中だとしても
言葉を交わすことがなくても
水辺の星空からその情熱を
太陽の花からこらえた涙を




R1.11.25

2020/08/20 (Thu)

[135] テオ
詩人:理恵 [投票][編集]



数年前、彼からその絵画を買い取った
とても魅力的な一枚だ
私が踵を返すとき
待ってくれと彼は言う


これなんかもどうだい?
なんて、テーブルに広げて


潮のように渦巻いて
星まで自己主張の強い夜の空


なんだその絵は? 勘弁だ!
私は静かな夜がいい!


そう言うと、彼はじゃあこれは? と
茶色い絵を持ってきた


おいおい、きみは正気かい?
こんな花瓶に収まる花が
太陽の下伸びゆくひまわりなんて


悪いが今日はこれで終わりだと
歩き出した後ろから
いやぁ、すまないと声がした


しかしそいつは凄い画家だから
また見てやってくれなんて笑いつつ
彼はそれをしまいこむ


全く! その青が渦巻く夜に
何を見てるか知らないが


その画家の絵が一枚売れたと聞いたのは
それからまもなくのことだった


いま、二つ並んだ石を見て
なるほど、私にはわからないわけだ
そこにはただただ、風が吹く
彼は今日も信じているのか
その石に刻まれた、同じ名のもとに





R1.11.25

2020/08/20 (Thu)

[136] これは詩ではない、詞である。39
詩人:理恵 [投票][編集]

野火 -大岡昇平『野火』より-





ゆらめく火が煙を立て
僕の歩く方を示す
この鼓動が止まればいいのに
願う先は怖くなかった

それなのに一人で生きる道を選んだ
英雄になる前に人間だったんだ

あぁ 山を駆ける風よ
火種はいつ消えるのだろう
交わることのない心は
どこをさまよいゆくのだろう


泥の中を進んだ手が
銃の引き金を引く
罪もなき命が消え
言い訳だけがここに残った

十字架のその下重なった屍を
もう一つ増やした 僕のこの手で

あぁ 空を渡る鳥よ
そこから火は見えるだろうか
水の底へと投げ捨てた
衝動は重みを感じていた

かつて神を信じていた僕が
僕を責め立てる
白い旗を上げても
生きたいと願う 
その足下にいるのは誰だ?

あぁ 目の前に横たわる
命に手を合わせている
もう煙を頼らずとも
行こう 微笑む彼らの元へ





2020.9.18.

2020/09/18 (Fri)

[137] 笑顔
詩人:理恵 [投票][編集]

「お互いに笑って過ごそうね」

って言われたら

「あなたが笑っていることが私はいちばん嬉しいよ」

って返すの

だってね、あなたは知らないと思うけど

私、今までたくさん迷惑かけて

たくさんの人の笑顔を奪ってきた

だから、私は

私の笑顔を願えないの

でも

誰かの笑顔なら願えるし

そう言えば

きっとあなたは納得するから

だから

そっと本音はしまっておくの





2020.9.28

2020/09/28 (Mon)

[138] 宛先のないことば
詩人:理恵 [投票][編集]

その昔

私にあいしてるをくれたのは、
知らない人でした

その人のあいしてるを理解している自信は、
ありません

辞書に載っている愛してるは、わかります

でも、時々思い出すその人のあいしてるは
知らない言葉のように響くのです

だから私は今日もしたためるのです

宛先のない 思いをここに





2020.10.7.

2020/10/07 (Wed)

[139] 白鷺
詩人:理恵 [投票][編集]

冷たい川に、一人ぽつん。
歩き始めた赤ん坊が指さして
隣で母が笑ってる。


毛布に包まれたいような日に
冷たい風に吹かれても
ちらつく雪にさらされても
なぜそれほどまでに大きいのか


足元でついっと泳いだ鴨が
楽しげに列をなしてても
きみは一人羽ばたいていく


もっと北の大地では
丹頂鶴が鳴くという
飽くなき夢はそこらじゅうに
散らばっていて


小さなものは大きなものに憧れて
大きなものはより大きなものに憧れて


私たちはそれに見とれてる


そして雪が解けた頃
きみはまた、飛んでいく


日本のどこか
世界のどこか


丹頂鶴のそのように
自分の求める声を響かせて




2019.11.25
2020.12.16 一部編集及び投稿

2020/12/16 (Wed)

[140] 地獄の海で
詩人:理恵 [投票][編集]

あなたと出会えたこと
後悔することなのか
喜ぶべきことなのか
ときどきわからなくなる


もう、あなたから元気も笑顔も
受け取る術はないというのに
もう、思い出を
消費していくだけだというのに


あなたは間違いなく必要な人だった
私なんかに出会わなくても
きっと多くの人を救っただろう




ただ、いなくなりたいと思う時
たった一人を思い浮かべて
まだあなたに会えないと
合わす顔がないと
胸を張ることなどできないと



まだ、この地獄で泳がなくては
あなたに会えない



もっと、気軽に
死ねればいいのにと


時々、後悔する





2020.12.20

2020/12/20 (Sun)

[141] これは詩ではない、詞である。43
詩人:理恵 [投票][編集]

誰がそれを教えてくれますか
荒野に一人芽吹いた花に
冷たい月の光る夜に
涙を流すこともしない花

見慣れた灰色の地面に
目まぐるしく行き交う喧騒
初めて怖いと思ったの
誰の影もないこと

この肌で感じてる
声が 温度が その景色が
消えてしまうことのないよう
心からそう強く願ったの


暗い夜の星になれるなら
生きてくことも怖くはない
強がりかも見定められない
無力さを思い知った日があった

命も雨風も季節も
与えた癖にどうして
太陽は一人輝くの
空の青を抱えて

ありふれた日常が
壊れる刹那から救ってくれた手に
知った感情
触れたものがその心にあるなら

その涙を隠すのはもうやめてよ
暗い影もあっていいんだよ
ねえ 笑って

くだらない日常の
モノクロに光を差すひと
この声が聞こえますか
いつも何度も呼んでいるよ

この肌で感じてる
声が 温度が そのすべてが
消えてしまうことのないよう
私はずっとずっと願ってる

そう あなたの幸せを





2020.12.11

2020/12/21 (Mon)
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