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理恵の部屋


[136] これは詩ではない、詞である。39
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野火 -大岡昇平『野火』より-





ゆらめく火が煙を立て
僕の歩く方を示す
この鼓動が止まればいいのに
願う先は怖くなかった

それなのに一人で生きる道を選んだ
英雄になる前に人間だったんだ

あぁ 山を駆ける風よ
火種はいつ消えるのだろう
交わることのない心は
どこをさまよいゆくのだろう


泥の中を進んだ手が
銃の引き金を引く
罪もなき命が消え
言い訳だけがここに残った

十字架のその下重なった屍を
もう一つ増やした 僕のこの手で

あぁ 空を渡る鳥よ
そこから火は見えるだろうか
水の底へと投げ捨てた
衝動は重みを感じていた

かつて神を信じていた僕が
僕を責め立てる
白い旗を上げても
生きたいと願う 
その足下にいるのは誰だ?

あぁ 目の前に横たわる
命に手を合わせている
もう煙を頼らずとも
行こう 微笑む彼らの元へ





2020.9.18.

2020/09/18 (Fri)

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