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フィリップの部屋


[306] 霞ヶ関にて
詩人:フィリップ [投票][編集]

高層ビル群の森を
渡り鳥が飛ぶ
神ではなく
人間が創った森
永き年月を経た
木々を殺して
創り直した森
人間の生命など
こんなにも短いというのに


街の喧騒が
いつもと同じなのは良いことだと思った
平凡な日常は
平凡なまま
それぞれのドラマを作ろうとしている
街路樹の梢が
今朝の間に三ミリ
明日へと伸びた
誰も気付かないような時間の中で
世界はゆっくり
確実に再生しているようだ


愛し合うもののために
生まれてくるもののために
僕たちはこの世界を遺していかなければならない
例え血が流れていても
例え灰色の空だとしても
かつて僕らは
この世界を受け取ったのだ
夕暮れにたたえた賛美歌のように
妖しく
美しくなければ
世界を託す意味がない

動き続けるこの惑星で
僕たちは互いに誓い合い
ぶつかり合い
愛し合って生きている
いつか
遠い未来で
今日のこの日も
静かに暮れ行く世界ならば
僕はまた
空を見上げるのだろう

高層ビル群の森を
渡り鳥が飛ぶ
どこか遠くで
朝を告げる目覚まし時計が鳴っている
今日また
誰かが世界を受け取ったのだ
朝焼けにたたえた賛美歌のように
妖しく
ただ揺れながら

2008/05/25 (Sun)

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