詩人:是清。 | [投票][編集] |
今日より/足元覚束ぬ流浪ノ身
足高き木に登りて/遠く見遣る思慮深き濃紺の瞳
温い曹達水/彼の槿花
只今/微動だにせず
深く腰掛けるにお誂え向きな
安物の金属の椅子に座つて居ります
目蓋を震わせ級友達が唄ふのです
唯青い此の空
妾達の頭上を通過して往きます
後ろには弔電が
今も未だ教育と云ふ名の羊膜に包まれて居ました
其の事に気が付く事無く無駄な月日を重ねて来ました
叱咤して下さつた彼の整然と並んだ模範囚の皆様
今何故流れぬ/妾の頬に雨垂れは無く
今更乍らに涙腺の強さを
口惜しいと感じて居ります。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
上から視ても/下から観ても
中途半端な妾と貴方
妾の足りない部分
貴方の所有物
貴方の足りない部分
妾の支配下に
此の脹ら脛
其の白い脛
御布団の中で
彼の熱い耳朶
唯切ない谷
重なれば/今重ねれば
何事にも屈しない強い蝶番
出来るだらう
巧く閉まるだらう
今迄に無い強風に耐え得る物々しい扉。
…コノフクラハギ
ソノシロイスネ
オフトンノナカデ
アノアツイジダ
タダセツナイタニ
カサナレバ/イマカサネレバ
ナニゴトニモクツシナイツヨイテフツガイ
デキルダラウ
ウマクシマルダラウ
イママデニナイキヨウフウニタヘフル
モノモノシイドア。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
幾つもの/無駄な言葉を省いたら/何も云へなく成つてしまう・だうせ妾は/偉大なる貴方にとつて/何も/与へられる事等無く/伝ふる術等/是しか持つて居ないのだから。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
腐り掛けて/やツと今/並べられた献花の中/貴方ノ声を思ヒ出す/ 未だ微かな弧を描いて/不思議な円ヲ描き出す/くぐもツた重低音は/店の淵で/年代物の虚し気な/公衆電話から/飽きもせず生み出される・だうして貴方は其のやうに/白いのだらう/不可思議な白昼夢ノ中/近所の川を眺めテは/虫ノ知らせ思ヒ出す・棺の中の偶像に/何の感情も湧かなイ/有り難イ説法も/妾と夢を繋ぐパイプラヒン/断ツて断ツて/未だ此処に繋イで居た/細イ糸は切れた/妾は告げた/「是が始まりなのだ。」と/惨めに/泣き荒ぶは彼のひとの/正しイ隣ノ席ノひと…。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
依然
以前
漠然として居た
胸騒ぎだけ
何時もと何ら
変りは無くて
沢山
勿論
持論が有つて
五月蝿い程の投げ掛け文に
投げ遣りに
答えては為らない
意味の重い文字
多過ぎる約束に縛られ
身動きの取れない
惨めな妾
笑ふが良いわ
虫食いだらけの
安い紙切れに
無駄に一生
食ひ尽くされて
量産された
印だけで
総てが
束縛される訳も無い
上から威圧的に
見下ろす視線
捻伏せる少数派
新しい階段
登つても
無言のファシズム
消える事も無い
唯一妾に出来る事
優柔不断な妾に出来る事
頭蓋を曲げて
少し柔軟に成る事。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
愛す愛さない等と/云ふ前に/只の雄と雌/薄つ平な口で語り合ふより/何より/求め合いませう/互いを/冷たくなつた身体を・二人の世界が腐らない内に/貴方の微かな吐息を/奇麗な曲線の首を/真白な精神を/総て奪ひ尽くしませう/是だけ/唯其れだけ/他に望む事等無い/有る筈が無い…。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
紫匂ふ/妾の為の夕立/頭文字から/忌々しい/厭な記憶が/蘇つた/一方的な/好意にすら/行為にすら/甘いだけの態度/望んだ訳では無いのに・何故に/今更/何を望むと云ふのだらう/不可思議な/感覚に/妾の指先は震へる/乾いた言葉で慰めるより/直接的な抱擁こそ必要で/寧ろ誤魔化して/忘れ去る事こそが/妾達二人に残された/最後の手段なのかも知れない。
詩人:是清。 | [投票][編集] |
だうせ最初から気紛れな気持ちなのだし/曲がり為りにも恋人同士何て謂ふ理由で妾を曲げる気も起きない/容易く仮面を被つて/有りがちに微笑む事等したくは無い/其ればかり/堂々巡りの一夜なの/其れなら貴方の/静かな寝息を止めようか/其処迄考えて/結局止めた/裸電球の下の一組の布団/伝はる熱で/最早後戻りは出来ない事/此処以外帰り着く場所等無い事。