詩人:甘味亭 真朱麻呂 | [投票][編集] |
このキャンディ
涙がでるほど幸せの味がする不思議なキャンディ
なめればなめるほど味がでる
時がたてばたつほどその味は広がる
こぼれ落ちた涙もまたキャンディ
少し塩味のきいた塩飴みたいなキャンディ
ふいに浮かんだ笑顔も甘い甘いキャンディ
でも甘いだけじゃない
悲しみをいくつも乗り越えてきた末になめられる隠れたドラマをもつキャンディ
だからなんだか色あせて薄汚れた色をしたキャンディ
でもそこがただ甘いだけのキャンディよりずっとおもしろいところ
今日もボクはキャンディなめる 口の中じゃなく心の中でなめる
それはふつうのキャンディみたいに溶けるからやがてなくなるよ
キャンディをなめる心をなくしたボクの命が尽きれば幸せがボクを見失う
その時 ボクはなにしてるかな
その時 ボクは何歳なのかなあ
気になるほどに忘れそうになる
その甘さのせいでたまにむせる
悲しい思い出や楽しい思い出が混ざったその味は遠い遠い昔を思い起こさせる言葉にならない味
記憶のキャンディ
キャンディ かえっておいで
キャンディ いくつになってもボクを見放さないで
ボクの頭の中で少しずつ溶けてゆくいくつものキャンディが甘くほろ苦く
涙がでるほどおいしくて
悲しいくらいその味を記憶はおぼえている
だから忘れてく痛みやつらさが何倍にも膨れ上がる
だけど知らないあいだに記憶は跡形もなく消え失せる そんなものの存在さえ忘れる
ただその記憶を忘れないボクを作り上げても記憶は遠ざかる
少しずつ ひとつずつ消える記憶
最後の別れを惜しむこともなくすべての営みを記録した記憶は表紙ごとなにも残さず
キャンディのごとく舌のうえで溶けてゆく どんなに味わってなめてもほっとくだけでも溶けてゆく
面倒になって噛み砕いてしまう人はその淋しさに命を返す代わりに飴を吐き出しボクを描いた神様に返すよ。
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