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甘味亭 真朱麻呂の部屋


[4251] 青空が見える場所
詩人:甘味亭 真朱麻呂 [投票][編集]


ただいまとおかえり 重なるようにほぼ同時に聞こえる
そのふたつの日常会話があたりまえのように響く夕暮れ
だけどその言葉はあたりまえのようですごく特別な言葉さ
心の端っこで言葉がパチンって音を立てて割れた 割れた
おかしいね
あたりまえなのに時々涙がほほをつたう

真っ赤な夕陽が町を紅に染めて
お空もどことなくさよならの色になって
やがてやさしい灯りがともりだしたら
カラスも巣に帰り
子供たちも皆それぞれの家に帰って
悲しいくらい美しい静けさと切なさだけをとり残した頃に僕はひとりまだ帰り道
なんとなくなんとなく帰りづらくて
僕の巣は息が詰まってしまうから

それでも僕が帰るべき場所はあそこしか無いんだ
もうあそこしか

家に帰れば母さんはうるさいしさ
父さんは学校のことばかり
ほんとイヤになる

それでもおかえりが聞こえる場所はあそこだけで
僕のただいまって声を待ってくれてる人がいる家は世界であそこだけだから
僕はあたりまえで特別な幸せの中へと帰る
夜から降り出すらしい雨が降らないうちに僕は帰る

なんだかんだで満たされてる幸せにこれ以上求めることはないけどただ自惚れただけだ

雨でもおまけに強風でも雷でもあそこに行けばいつでも見える
青空が見える

うるさい母親も小難しい父親も扱いづらい世の中も実は幸せをより鮮やかに見せるためのわき役だった
でもなんだかいなきゃいないで寂しくなる

ただいまとおかえりが言い交わしあえたとき本当の僕の1日が終わる 僕のもうもどらない1日が消える
なんだか悲しいのに切ないのにどこかその悲しさ 切なさの中に喜びは隠れるようにあるんだ
見える 苦しい中にも青空が
青空が見える

ここはよいとこ
欲のない僕にはまさに楽園だ
いつまでもいつまでも居続けたい青空が見える場所
青空が。

2009/06/12 (Fri)

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