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甘味亭 真朱麻呂の部屋


[813] 『記憶の中の少女』
詩人:甘味亭 真朱麻呂 [投票][編集]


歪んだ景色と
ひどく濁った空の色
明日を迎える僕らは行き場を見失い
希望すら見失い
祈りは天に届くこともなく
暗い暗い海の底へ
届かずに終わった
願いを一つ一つ
深い深い海の底へ

立ち止まったのは
いつだろう
がむしゃらに走れたのは何故だろう
僕の手の中に残る
枯れて萎れた花びら一つ
語りかけても答えることもなく
ただ幸せそうに頷くだけ

一番大切なもの
一番守らなければならなかったもの
一番愛さなければならなかったもの
一つ一つ思い出していく
頭痛を堪え
ノイズに耐え
吐き気を我慢し
一つ一つ思い起こしていく

…広い……草原
……どこまでも続く青空
白い帽子を風にたなびかせ
僕に笑いかける
見たことのあるような一人の女の子
また僕に笑った

でも僕はその女の子が誰か思い出せない
こんなに涙は溢れてくるのに
こんなに胸は痛むというのに
思い出せるのは
ある特定の記憶の景色と
言い様のないこの込み上げるほどの悲しみと胸の痛み

嗚呼(ああ)
名前も知らないアナタは
何故だか懐かしいアナタは
そこでただ笑いかけるだけ
そこでただ私に手を振るだけ
それだけで僕は涙が止まらず溢れ出る
それだけでこんなに悲しい気持ちになる

何故だかアナタに愛しささえ覚えて
何度も何度も見るうちにアナタが他人じゃないような
そんな気すらして
僕は夢のアナタに
今夜も会いに行く

いつもと同じ
広大な草原と水彩画を切り取ったような澄み渡った青空
僕は繰り返し繰り返しアナタに手を降り続ける
記憶の中の少女に手を降り続ける。

2007/03/29 (Thu)

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