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あいくの部屋


[266] 郵便屋さん−上−
詩人:あいく [投票][編集]

その若い郵便配達員は
これから配達不能処理される
一枚のハガキに目を留めた
官製ハガキではない
手製のハガキ
宛名には郵便番号も住所も無く
ただ送り先の男の名前と
差出人も女の名前があるだけ
行くも返すも成らぬハガキ
善く無いとは思いつつ
文面をみると

『「とても世に
  ながろうべくも あらぬ身の
  かりのちぎりを いかでむすばん」

 先だってのお申し出の件
 かようにお返事申しあげます
 わたしも何時かは
 あなたの家の庭に咲く
 竜舌蘭の花を供に
 見上げる事も夢見ましたが
 花が咲くにも誠を知るにも
 相応の時が必要でしょう
 このハガキが届く心ある事
 願いつつ』

ハガキに心があっても
宛先の住所無しじゃ
届け様も無いな
配達員はそう思いながらも
何故か酔狂交じりか
そのハガキを配達鞄の
奥に押し込めたのだった
つづく。。。

※作中の和歌「とても世に〜」は楠木正行の歌を引用してまふ

2005/10/24 (Mon)

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