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《暗転》
…そっか。
はい。
だから、4才から
お婆ちゃんに
育てて貰ったんです。
引っ込み思案な
子供だったあたしを
「勇気凛々」って
いつも背中押して
くれてました。
そっか…
オーイ!天野っ!
あれっ、ユキさんも…
お、立ち話のひと
来たぞ、ユキちゃん。
天野、
なんだソレ?
いや(笑)
善田、今
ユキちゃんの
お婆ちゃんの話
聞いてた。
勇気凛々な柚木 凛
だって。
ユキちゃんが
客先の部長を
「セクハラですっ!」
て叱るような
勇気ある女子社員だと
知ったら
お婆ちゃん
なんて言うかな?(笑)
ユキさん
そうなの?
確かに勇気ある(笑)
善田さんまで
からかわないで下さい。
天野主任っ!
ユキちゃん見ま…
あっ!ユキちゃん!
今、ユキちゃんの
大阪の親戚って人から
電話があって、
お婆さんが
亡くなられたって…
え!!
ユキちゃん
駅まで車で送るよ
でも…
仕事の事なら
みんなでカバーするから
心配するな
行こう、ユキちゃん
はい…
天野っ!
わかってる、善田。
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《浮気の相手》
ユキさん
この間はごめん。
あの夜のぼくは
最低だった。
いいえ
お酒が入っていたし、
善田さんの気持ちも
なんか判るような気が
します。
主任の自信に溢れる
生き方が、
時に周りの人の心を
傷つけることが
あるのかも知れません
いや、それは周りの人の
嫉妬心や劣等感に
起因するもので、
天野の責任じゃない。
主任をうちの会社に
誘ったのは
善田さんだったんですね
ああ、天野は前の会社で
上司の不正を告発して
結果的に会社を去らざる
を得なくなった。
ぼくが誘っても
まさか来ないと思った
けど、天野は来た。
「まさか来ない」と
思ったのは、鈴さんの事
があったからですか?
…!!!
ユキさん知ってるの!?
ぼくと鈴さんのこと?
天野が話したの?
いいえ
あたしのカンです。
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《鈴さん》
主任…
鈴さんて…?
山崎 鈴。
別れたヨメさん。
聞いていいのかな…
なに?
なんで別れたんですか?
…なんでかな。
俺との心理戦の毎日に
疲れたんじゃないかな
ユキちゃん、前に
俺といるとホッとする
って言ってくれたけど、
彼女はそうじゃなかった
んだろう。
主任は?
ホッと出来なかった?
俺はユキちゃんといると
素に戻れる。
ユキちゃんは水みたいだ
静かな湖面のように
澄んでいるかと思うと
激流のようなパワーで
突っ走る。
低いところに流れて
驕らないし、
どんな入れ物にも
形を合わせられる。
俺は…水がなければ、
生きていけない。
…俺はユキちゃんが
好きだ。
主任…。
あ、俺
だいぶ酔ってるな
(苦笑)
くちびる
切れてますよ。
大丈夫、
アルコールで
消毒したから(笑)
痛くないですか?
いや、キスくらいなら
出来る…
主任!
してくれたら
直ぐに治んのに
ケチ。
ばっか
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《真剣勝負》
ユキさん、
コイツはねぇ
卑怯者なんだ…。
善田、酔ったのか?
ユキちゃんに絡むなよ?
ユキさんにじゃない、
天野、お前に言ってんだ
お前はぼくと
勝負するのを
敢えて避けた…
また、その話か?
お前、シツコイぞ?
もう10年も前の話だ。
いや、ぼくにとっては
まだ、終わってない。
俺はお前との試合で
一度も勝ったことがない
剣道ではお前の方が
俺より上だった。
それは結果がはっきり
証明している。
それでいいじゃないか。
よくない。ぼくは、
お前に試合で勝てても
勝負では勝ってない。
お前は、小手・胴打ちを
封印して、面一本に
拘った。
直球だけしか
投げないなら、
どんな剛速球だって
いずれ打たれるさ。
天野、お前は
友だちであるぼくとの
勝負を敢えて避けたんだ
善田、もう止そう。
俺は
負けた時の言い訳の為に
面一本に拘るフリをした
違う!
面打ちしかしないお前に
ぼくは辛うじて試合には
勝てた。
お前が
すべての力を出せば
ぼくなんか相手にさえ
ならなかったはずだ。
ぼくはずっとお前に
負け続けているんだ…
鈴さんとの事だって…
オイ、善田!
その話は止めとけ!
わかった、
その話は止める。
じゃ、天野、なんで
今の会社に来たんだ?
何言ってる?
お前が誘ったから
来たんじゃないか。
俺は失業中だった。
誘ってくれて感謝してる。
ありがとう。
天野、
お前はぼくを
ずっと昔から
軽蔑してるんだろう?
バカ言うな、善田。
もう飲むの止めとけ。
今日は飲み過ぎだ、
善…
ボコッ!!
善田さんっ!
何するんですかっ!
暴力は止めて下さいっ!
ユキさん…ごめん。
天野、すまん。
いや、いい…。
主任、大丈夫ですか?
ああ…大丈夫だ…
主任、口から血が…。
ジッとして…
天野、ユキさん。
先に帰る。すまん…。
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《名もなき花》
―――――――――
【天野 光
(あまの ひかる)
1977/10/17
星座:天秤座
身長:183cm
心理学専攻
スポーツ:剣道】
―――――――――
ユキちゃん?
何そのメモ?
身元調査してんの?
そんなモンは、
ただの知識だ。
それを知ったからって
俺を知った事には
ならないよ?
目の前にいる俺を
ちゃんと見てくれよ。
名前を知らない
どんな花でも
あたしは
キレイだと思う。
でも、
どんな荒野に咲く花にも
名前はあるでしょう?
名前を知れば、
その花のことを
もっと知りたくなる。
そして
もっと好きになる。
あたしは
名前を単なる
記号だとは思えない。
うん、ユキちゃんの
言う通りだ。
柚木 凛という名前は
俺にとって
特別な名前だよ…
あたしにとっても
天野 光という名前は
単なる記号ではなく
それを口にする時
心が温まったり
勇気を貰えたり
慰めてくれたりする
不思議な力を持った
大切な名前です。
悪かったね、
ユキちゃん。
もうワザと違う名前で
きみを呼んだりは
しない。
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《ナンパ・マニュアル》
主任、はいコレ。
この間、主任から
渡された書類に
紛れ込んでました。
なんだ、ソレ?
「ナンパマニュアル」
です。
@最初に
名前を間違えて
相手にインパクトを与え
自分を印象づける
A周囲を巻き込み
敢えて公然の仲とし、
既成事実化する。
つまり、外濠を埋めて
陥落させる…
まだ、続けます?
…ああ、ソレ、
もう要らなくなったから
捨てといて。
悪用されるとマズいから
シュレッダーに
かけといてね。
主任はコレを作ったのは
自分だって認めるんです
か!
そうだけど?
ユキちゃん
何に怒ってんの?
最っ低!
ユキちゃん
なんか誤解してるよ?
うちの水田くんに
「主任は
心理学部出身だから
ひとの心理分析に
長けてるでしょう」って
頼まれて仕方なく
作ったんだ。
それ使う前に水田くん、
あえなく撃沈したみたい
だから、要らなくなっ
たけど。
主任、それをあたしに
ついでに援用したんじゃ
…?
ユキちゃん、
自分の事
まるで判ってない
みたいだな?
ユキちゃんは、
そんな見えすいた手口に
引っ掛かるほど、
チープでバカな女
ですか?
Yes or Noで
お答え下さい。
2秒あげる。
…では、どうぞ。
…なんかあたし
また主任に
うまい事
言い含められようと
している気がする。
それはユキちゃんの
気のせいだと思われます
(笑)
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《噂話》
仲いいんだか悪いんだか、不思議なカップルよね、あのふたり。
えっ!あのふたり付き合ってるの?
大きな声出さない…
だって、アタシ、別の部署の子たちが、トイレで話してるの偶然聞いちゃったの。天野主任がユキちゃんを2週間以内に落とせるかどうかで設計にいる主任の友だちと賭けてるって。
それはないでしょ。主任、離婚話でゴタゴタしてて、そんな余裕はないはず。ふたりとも、もういい大人なんだし、そんな子供じみたゲームなんかするはずがないでしょ。主任ああ見えて、根は真面目な人だから。
主任真面目かなぁ?
少なくとも、ユキちゃんに対してはそうじゃないかな?最初はからかってただけかもしれないけど。
離婚だってユキちゃんが原因じゃないの?
違うわよ、それは。
あ、でね、トイレで噂話してた子たちが行ったあとに、アタシの隣りの個室から、ユキちゃんが出てきたの。
ユキちゃん青ざめた顔してた。
それは主任に相手にされなかった子たちが、嫉妬して無責任な噂流してるだけでしょ。ユキちゃんなら大丈夫よ。しっかりした子だから。
ユキさんて、いくつでしたっけ?
たしか22
え〜っ。童顔だから、もっと若く見えるぅ。
うらまやしい…アレ、うまらや…うやま…
うらやましい?
そう、それ。
なんで、そんな簡単な言葉噛むかな。
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《ものさし》
主任、背高いですよね?
ちょっと立ってみて?
ここでか、何すんの?
いいから、いいから…
背筋伸ばして!
ウヘェ、
ユキちゃんの背中
あたか〜い!
お尻とっても
やらか〜い!
主任、ジッとして!
すんまそん、
怒られちったよ…
あたしが168cmだから
握りコブシと指4本で…
主任の身長は183cm?
正解!
そんなんで判るんだ、
スゴい。
お婆ちゃんに
教えて貰ったんです、
何もない時は、体使えば
何でも測れるって。
ナルホロ。
俺のユキちゃんへの愛も…
測れませんから!
怒んなよ、そんなんで。
…えっと183と…。
何メモってんの?
何でもないです…。
いやいやいやいや
メモってるし。
…花の名前を知れば
もっと好きになる…
ん、なんだ?
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《ライバル・善田》
善田さん…。
あ、ユキさん。
なんだ、ぼくの名前
知ってたんだ(笑)
ごめんなさい。
昨日まで
知りませんでした。
どう、アイツと
仲直りできた?
はい。
…と言うより
あれは、わたしの
一方的な誤解ですから。
善田さんは、主任とは
古いお付き合い
なんですか?
うん、天野とは
大学は違うけど、
中、高と同じで
一緒に剣道やってた。
主任って剣道
強かったんですか?
ああ、ぼくは
天野と勝負して
一度も勝てた事がない
…剣道でも勉強でも
天野は常に
ぼくの前にいた。
ぼくは
天野の背中追いかけて
ここまできたんだ。
『ぼくと
真剣勝負しない?』
って…。
え?、
なに、それ?
いえ、
主任が前にあたしに
言ったんです。
『木刀・真剣勝負・竹刀』
ああ…(笑)
面白いな。
でも、
それ、天野なりの
ユキさんへの
プロポーズだった
んじゃないかな?
アイツ照れ屋だから、
ストレートに
言えなかったんだよ。
……。
ユキさん、何も
答えなかったんだ?
ええ…。
本当に
好きな人の前では
急に不器用になる。
真剣になればなる程ね。
男ってみんな
そんなもんだよ?
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《大切な本》
主任
今日、誕生日ですよね?
ん、うん。
誰に聞いた?
名前知らないんです。
立ち話のひと…
は?
立ち話のひと?
設計の…。
主任のお友だちだと
思うんですけど…。
主任と同じくらい
背の高い人。
善田だな、それ。
そう言えば、
ユキちゃんが善田と
話してるトコ前に
見かけたコトある。
でも、ユキちゃん、
相手の名前も知らずに
お喋りしてたのか?
あたし、そう言う人
結構多いんです。
自分にとって
本当に必要な人なら
名前は自然に耳に
入ってくるって、
今みたいに…。
あたし、
用がなくても
本屋さんでボーッと
本を眺めるのが
好きなんですけど、
自分に必要な本は
向こうの方から
「わたしを手に
取ってみて?」って
語りかけてくる、
そんな感じがするんです
手にして読んでみたら
それが大好きな本に
なったりすることが
多いんです。
俺は必要な本かな、
ユキちゃんにとって?
はい…。
だけど、まだ
大切な本ではない?
……。
ユキちゃん、
誕生日のプレゼント
貰える?
…いいですよ?
何にしますか?
ユキちゃんを
ホットで。