詩人:アル | [投票][編集] |
疲労困憊
仕事終りの
ロッカールーム
課長相手に軽口叩く
「うちの部長は
部長と言うより
中小企業の社長
みたいですよね?」
この辺りで
課長の目が
泳ぎ始めた事に
気付きながら
軽く弾む口元を
抑えられない
「…鬼のように頑固で
気分で怒るけど
その後、見せる笑顔が
なんとも
子供みたいに無邪気で…」
課長の顔が歪み
視線を左端に寄せて
顎で何か訴えている
「え?」
だしぬけに
灰色のロッカーの陰から
信楽焼の
タヌキのような部長が
「お疲れ」とエビス顔で
笑いながら化けて出てきた
「………。」
…穴があったら
ブラジルまで掘りたい
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光を口一杯
頬張って
円満な笑みは
若い盛りに
下弦を知らぬ
上機嫌な月
日々に虫食む
闇に病んで
気紛れな暗雲は
風向きと
悪戯を企てて
兎角に追い討ちを
かけたがる
天翔る想いに
足し算と引き算が
繰り返されるばかりで
永遠に割り切れない
余りが残る
Moon turns back soon.
But it's not what it was
before.
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四角四面じゃ転がれぬ
丸きゃ丸いで留まれぬ
真っ直ぐ歩けば行き止まる
曲がるばかりで行き着けぬ
四面楚歌では終われない
三面六臂じゃ浮かばれぬ
足元見られりゃ侮られ
拳握れば握手が出来ぬ
見下しゃ不遜と詰られて
見上げりゃ卑屈と蔑まれ
腹を割らなきゃ近付けぬ
本音を明かせば遠離かる
内に籠もれば引き出され
アタマを出せば叩かれる
兎角この釘
引き抜きにくい
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紅い鼻緒の下駄をつっ掛けて、町娘が通りを歩いてゆく。と、カタンと歯車が外れた絡繰り人形のように俄かに立ち止まり、娘の眉間が曇る。
そこへ月代清しき若侍が通りかかる。
「如何致した?
うむ、鼻緒が切れたか。
身供が肩に
しばし掴まりおられよ」
つと身を屈めると侍が懐から奇麗に折り畳まれた手拭いを取り出し、片端を歯でくわえると、きりきりきりと細く切り裂いた。侍は手際良くそれを鼻緒に絡めて結びつけた。
その間、町娘は軽く「く」の字に曲げた片足を地面から少し浮かせたまま、一二度よろけそうになっては、侍の肩に遠慮がちに掛けていた自分の手に思わず力を加えて、辛うじて平衡を保った。
「出来申した。
これで良かろう。
しからば、御免」
侍は軽く会釈をすると、草鞋をざざっと鳴らして踵を返した。
「申し、お侍さま!
お名前を…」
侍は三間ほど先で一旦立ち止まって振り返り、静かに黙礼で応じた後、再びくるりと背を向けると、市井の群れに紛れてやがて見えなくなった。
娘は踵も高々に、遠離かる侍の背中を凝視ていたが、後ろ髪を引かれる様に何度か返り見しつつ、名残惜し気に家路に就いた。
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希望も絶望も
無も無限もない
あるのは浮遊する粒子
個が全体で全体が個
君が僕で僕が君
置き換わってゆくばかり
他には何もない
喜びも哀しみも
風のように
ただ吹き抜けてゆくだけ