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アルの部屋


[173] Around 19
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大学に
ふたり並んで
蹴り倒されて
寄る辺なく
汗ばんだ手を繋いで
一緒に漂っていた

きみは
大学生のニィニィと
ふたりでアパートを
借りて住んでいた

「夕方から
サークルの合宿で
俺はいないけど
よかったら
泊まってけよ?」
きみの兄貴が
さり気なくそう言って
出てゆくとぼくらは
ふたりきりになった

いつもと違う
夜の静寂に染められて
言葉が自分の役目を
忘れたように押し黙る

フローリングの一室を
二つの机で仕切られた
向こうとこちら側に
布団が敷かれた

湿った虫の音が
沈黙の夜を更に深くする


「…あ、蛍」

きみの声が
薄暗い部屋に点る

開け放たれた窓の
網戸を潜り抜けた
一雫の光が
闇に漂っている


「ほら蛍
指差すひとの
香ほのか」


それを切っ掛けに
ふたりは
ひとつの布団に包まって
初めての夜を明かした






「大丈夫?」

何年ぶりだろう
別れたのがまるで
昨日のことのような
話し方と懐かしいその声

「なにが?」

「黙って
こっち見てるから」

「はぁ?いつ?誰が?」

「あなたが、
昨日の夜、夢で」

「夢かよ!知らんがな
ギャラよこせよ(笑)」

「しあわせなの?」

「教えてやんない
きみは?
あ、やっぱ、いいや」

「なんで?」

「女って
しあわせでなければ
昔付き合ってた男に
電話なんか
かけてこないから」

「そうかな?」

「そうだよ」

「じゃ、
そういうことにしとく」

「うん、じゃ
元気で」

「うん…」

共に過ごした時間より
離れてた歳月の方が
はるかに多く降り積もった

この古傷を
暖かな想い出に包んで
やがて来る冬を
ひとり超えてゆく

ぼくは元気でいなくちゃ
きみのためにも

2010/10/01 (Fri)

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