物心いづれ先立つものかを知らず、物在りと言へども在りと存知せざれば、さながら無きが如し。汝あらねば我無く、我無ければ汝無し。かく愚案巡らせば、人一人にて生くるにあらず一人にて死ぬるにもあらず夢みがちに現つを渡り、現つに夢を占いつつ、もろともに生き、一切を具して黄泉の国へと舟出するなりかく思へば喜びも哀しみも吹き抜ける風に同じ。皆人等しく来たりて、復た去りゆくのみ。
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