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アルの部屋


[89] トイ・ピアノ
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まだ言葉さえ
上手く喋れないのに
ちょこんと座って
やらかい両手で
ちっちゃい鍵盤
キンキン叩いて
キャッキャと
満面の笑顔。

あの頃は
モーツァルトより
ベートーヴェンの方が
好きだった。
どんなに努力しても
モーツァルトには
なれないけど
深刻に俯いてれば
ベートーヴェンには
近付けると
勘違いしてた。

「赤ちゃんて
いい匂いするね?」

きみの分身を抱いた
きみの傍で
むかし教えてくれた
「エリーゼのために」を
弾いてみた。

「まだ覚えてたのね?」

「うん、指が、ね。
...そろそろ俺帰るよ」

「え!会ってかないの?」

「うん、時間ないから
よろしく言っといて」


赤ちゃんは
アイツではなく
彼女に似ていて
抱き締めたいくらい
可愛いかった。

「カワイイガキ」

「ん?」

「いや、そのトイピアノ
河合楽器だろ?」

「やっぱ変わんないね?」

「ああ、一言多いのに
必要な言葉は足りない」


抱くって
手で包むって
書くんだね。

それは言葉にしなかった。



ぼくはむかし
彼女を優しく包んで
あげれなかった。

まるで
おもちゃの
ピアノみたいに
キンキン幼い音を
奏でるばかりで。

2010/03/28 (Sun)

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