詩人:地獄椅子 | [投票][得票][編集] |
この楽園、最初の涙それは海。悲しみは真珠。
優しさは波。
溶け合う大きな愛。
美しいシンフォニー。
体中が歌い出す。
ランランラン。
圧倒的な自然の摂理の前に。
全身で歓喜の合唱。
神々は希望の小箱を、森の奥地に隠して。
高き山から見渡せる、絶景に溜息。
ランランラン。
子供達はプリズム。
争いのないユートピア。
上下強弱、隔たりのない豊かな世界。
大好きな人がそこにいて。
安らぎに憩う小鳥は青空に巣立つ。
なんて麗しき日々。
貴女の瞳の眩しさに、言葉は要らぬ。
朝昼晩。
芳ばしいパンの匂いに目覚め。
昼下がりのハーブティーで午後の息抜き。
庭の仔犬は走り回り、タンポポとじゃれ合う。
夕暮れになると貴女はブランコに座り、恋の唄を口ずさむ。
懐かしい絵本なんかを捲りながら、夜にはディナー。
一日の疲れを癒すように、温かなミルクを。
ゆったりとお風呂を。
春には桃色の花びらを掌に乗せ。
夏には浜辺で潮風と追い駆けっこ。
秋にはドングリと枯葉を集めて並べて。
冬には雪原で転んだ貴女に手を差し出す。
そして今、季節は黒く―。
ランランラン。
なんて幸せな毎日が僕らの横をすり抜けて。
ランランラン。
いつのまにやら取り残されていたんだ。
ランランラン。
期待していた通りにはいかないばかりで。
ランランラン。
もうこの声は貴女には届かない。
世界は遣る瀬なく。
僕は笑うことを忘れた。
リアルが全てを壊したんだ。
いけないのは誰とかじゃなく、きっと少しずつ変わっていった。
優しい貴女の笑顔。
まだ全然抱き足りなかった。
前略サッチモ様。
あなたが歌うワンダフルワールド。
鈍感な僕には聴こえません。
イマジンも、アメイジンググレイスも、愛の讃歌も、聴こえません。
雨にも風にも負けた僕。
腰にぶら下げた思い出が、明確に僕を参らせる。人はそうやって、美しいものを風化させてしまうんだろう。
ランランラン。
ハーモニーは今となり苦しいよ。
ランランラン。
冷めたく小さくなっちゃったね。
ランラン。
ランランラン。
貴女の写真も手紙も全部焼いたよ。
ランランラン。
この歌はなんでだろう。耳から離れないんだ。