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地獄椅子の部屋


[29] 黒い表紙の日記帳
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雨、上がったね。みんな傘をたたんでく。
日、伸びたね。こんな時間でもまだ明るい。

涙が明日を洗ってくれる。愛という洗剤でバシャバシャしよう。
恐くないよ。さあ行こう。
未来に続く扉をノックノック。

葉こすれの音。
穏やかな陽光。
生きててよかったね。
こんな日には鼻歌を。
笑うことができるから。
散歩がてらの柴犬にも愛想良く。

それでも少し淋しいのは、君からのメールが来ないから。
何度もセンターに問い合わせてみても“着信なし”。

知らない町で君は、仕事に忙しいみたい。
呑気で気楽な僕とは違って、君はとても真面目な人だから。

肩凝りは治ったかな。
悲しい夢は見てないかな。
朝ご飯ちゃんと採ってるかな。
枕は濡れていないかい。
心配で心配で君のこと。
遠い同じ空の下で、元気でいますか?


美しい世界が、何気ない足元に転がってるんだろう。
気付いてあげないと拗ねてしまうから、いつでも僕は小さな感動を忘れない。
ありふれた奇跡が、君と引き寄せ合ったり、離れてしまったり。
ことごとく色んな表情を見せるんだ。

もう随分開いてない。黒い表紙の日記帳。
B5版横罫の35行40枚のノートには、僕の想いがぎっしり詰まってるんだ。
あんなにも近くに、君がありふれていた日々の息遣いが密やかに聞こえてきて、胸が締めつけられるよ。

淡い水彩画みたいに鮮明だった記憶。
いつしか薄まり色褪せてしまうのかな。
そんな日が来るのが少し恐い。

初めて憶えた星座。
君の好きだったオリオン座は、うんと過去からの光を今夜も見せてくれる。
会いたくなるんだ。
思い出してしまって。
一晩中二人で夜空を眺めていたあの日。
次の日二人して風邪をひいた出来事。

会いたくなるんだ。
あの声と体温と仕草が愛しくて。たまらなくて。


まだ別れたわけでもないのに、悪い方に悪い方に考えてしまう。


雨、上がったね。
日、伸びたね。
君にメールしようかな。
返事はいつになるかわからない。

明日をノック。
君の心をノック。
恐くないよ。さあ行こう。
笑顔が今日を磨いてくれる。

2006/01/18 (Wed)

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