詩人:地獄椅子 | [投票][得票][編集] |
雨、上がったね。みんな傘をたたんでく。
日、伸びたね。こんな時間でもまだ明るい。
涙が明日を洗ってくれる。愛という洗剤でバシャバシャしよう。
恐くないよ。さあ行こう。
未来に続く扉をノックノック。
葉こすれの音。
穏やかな陽光。
生きててよかったね。
こんな日には鼻歌を。
笑うことができるから。
散歩がてらの柴犬にも愛想良く。
それでも少し淋しいのは、君からのメールが来ないから。
何度もセンターに問い合わせてみても“着信なし”。
知らない町で君は、仕事に忙しいみたい。
呑気で気楽な僕とは違って、君はとても真面目な人だから。
肩凝りは治ったかな。
悲しい夢は見てないかな。
朝ご飯ちゃんと採ってるかな。
枕は濡れていないかい。
心配で心配で君のこと。
遠い同じ空の下で、元気でいますか?
美しい世界が、何気ない足元に転がってるんだろう。
気付いてあげないと拗ねてしまうから、いつでも僕は小さな感動を忘れない。
ありふれた奇跡が、君と引き寄せ合ったり、離れてしまったり。
ことごとく色んな表情を見せるんだ。
もう随分開いてない。黒い表紙の日記帳。
B5版横罫の35行40枚のノートには、僕の想いがぎっしり詰まってるんだ。
あんなにも近くに、君がありふれていた日々の息遣いが密やかに聞こえてきて、胸が締めつけられるよ。
淡い水彩画みたいに鮮明だった記憶。
いつしか薄まり色褪せてしまうのかな。
そんな日が来るのが少し恐い。
初めて憶えた星座。
君の好きだったオリオン座は、うんと過去からの光を今夜も見せてくれる。
会いたくなるんだ。
思い出してしまって。
一晩中二人で夜空を眺めていたあの日。
次の日二人して風邪をひいた出来事。
会いたくなるんだ。
あの声と体温と仕草が愛しくて。たまらなくて。
まだ別れたわけでもないのに、悪い方に悪い方に考えてしまう。
雨、上がったね。
日、伸びたね。
君にメールしようかな。
返事はいつになるかわからない。
明日をノック。
君の心をノック。
恐くないよ。さあ行こう。
笑顔が今日を磨いてくれる。