詩人:トケルネコ | [投票][編集] |
闇を掻いて掻いて底へ底へと泳いでゆくと、ゆっくりゆっくりと
巨大なビル群と薄暗いネオンが見えはじめ
赤い尖塔の傍の、無人の十字路脇に、独り少女が佇んでいたそうな。
『いたよ』ビニールが指差す先にツツムラさんはユラリユラリ降りていき
その少女の傍の葉のない樹にフワリと掴まった。
少女は一心不乱に小さな機械を覗き込み、首を傾げ
脚を絡ませては細い指先を動かしていたらしい。
やあ、とツツムラさんが声をかけると少女は怒ったように目を上げて
やっと来たのね、と唇を歪ませて薄く笑った。
ツツムラさんは、私はベルべリ(*新月の守護天使)じゃあないと哀しげに首を振り
一緒に行こうと、少女の腕を取り上を指差した。
けれど少女は硬く頬笑むと、また機械の小っぽけな画面に没頭しだしたそうな。
すると突然、巨大な海流がツツムラさんを押し包み、少女は闇に流され見えなくなった。
『またダメだったね』
水びたしの喫茶店で、そう猫のビニールが言うと
そうでもないさ、とツツムラさんはいたずらっぽい笑顔をして
ポケットからあの少女の携帯を取り出した。
そして軽いステップを踏んで窓際の椅子のか細い影に手渡すと、
少女の影は「これで帰れる」と嬉しそうに呟き
小さく頭を下げて、フッと消えたそうな。
外ではいつも通り夕焼け空に、アヒルの親子の影が遊んでいたらしい。