詩人:トケルネコ | [投票][編集] |
相変わらずそこは風が烈しくて、ツツムラさんは飛ばされないよう
地面に火箸を差し、目に砂が入らないよう顔の前にビニール傘を掲げて
ゆっくりゆっくり段々畑に近づいていったそうな。
聳えるような段々畑の一番下に着くと小さな丸い立て札があり、そこにはこう書かれていたらしい。
【見ぬ目が見、嗅げない鼻が嗅ぎ、聞けない耳が捉える真実の嘘とは何か?】
ツツムラさんがモミアゲをいじりながら、目を輝かせていると
傘から猫に戻ったビニールがふと足元を見て、子供のようないくつもの足跡に気づいたらしい。
『あいつらだ!ボク達より早いなんて‥時のトロッコを使ったんだ!!』
そう叫ぶと同時、頭上からカラスのような、虎のような、はたまた双角のユニコーンのような鳴き声が谺し、
気づけば周囲は真っ青な闇に閉ざされていたそうな。
(まさか、ベルベリまで……)
そうツツムラさんは呟くと、急いでポッケの中の火の精をつまみ出し
ビニールにも手渡すと、一緒に飲み込んだ。
すると、一瞬にして朝焼け色の炎に包まれ二人は夜の砂漠から消えたそうな。
『危なかったね』
ビニールは炭色のゲップを喫茶店中に吹きかけ、小さな肩を震わせていたが
ツツムラさんはじっと真っ黒になった絵を険しい顔で見つめていたらしい。
そして深い深い溜め息をつくと、今日は店仕舞いだと椅子を片付けだした。
『あいつら、大丈夫だよね?トロッコもあるし。』
そうビニールが訊ねても、ツツムラさんはずっと無言で
最後に壁の画に布を被せると、屋根裏部屋に静かにあがっていったそうな。