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トケルネコの部屋


[22] ハジマリノ名前
詩人:トケルネコ [投票][編集]

どっかの工場の廃墟で僕たちは目覚めた。

孤独な瞳と、少年の眼差しを持って。

朝焼けが破れたガラスを透かして、倒れた椅子を、揺れる埃を、動かないモノたちを映す。


少女が言った。
『ねぇ、あなたの名前は?』
どこか懐かしい声…。

廃墟の空気はどこまでも澄んでいて、僕は何故か無性に泣きたくなる。

『そぅ…あなたも忘れてしまったのね』
少女の声が谺する。

僕はリュックの中から甘いコーヒーを入れた魔法瓶と
少しばかりのお菓子を取り出す。

『お腹‥空いたろう?』
少女にお菓子を手渡すと、少女はゆっくりと頷いて、
微かに笑った。

『名前は、また探せばいいさ』
僕は広く無機質な、それでいてどこか暖かい廃墟を見はるかす。

『冒険は始まったばかりだものね』
少女がまた、今度ははっきりと笑う。

そう、冒険はまだ始まったばかりだ。
僕は少女の手を握って、軋む鉄の巨大なドアを開けた……。



2009/12/06 (Sun)

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