詩人:トケルネコ | [投票][編集] |
かさぶたの街 秘密を拾う電線の波
踏み切りに哀しげに歌う満月
泣きそうな足取りでその仔は迷い込んだ
ツンとすました顔に白いしなやかな肢体 ちょっと汚れた可愛い子猫
餌をあげると不思議そうな顔をして見上げたっけ
その柔らかい瞳だけは俺の存在を否定しなかった
甘え上手なお前は多くの人に愛された
先を急ぐサラリーマンも バーゲン帰りの主婦からも
誰もが目を細め 誇らしく体を触れさせては器用に餌を貰ってたね
そんなお前も夜になるとベンチに寝そべる俺の元に返ってくる
「忘れてないよ」と言いたげに顔を擦りつけてきて
だけど抱き締めるとどこかへ逃げる 愛されたい訳じゃないと隠れる子猫
そんなお前だからこそ俺は好きだったのかも…‥
ある日 車道の脇の血溜りに見つかる子猫
しなやかだった肢体は紅く無残に轢き裂かれ ツンとすました顔だけを夜空に向けて
先を急ぐサラリーマンは顔を背け バーゲン帰りの主婦はただ首を振る
どれだけ体に触らせても決して飼われなかったお前を
誰かが『自業自得だ』と吐き捨てた
ねぇ、道の向こうには何があったの? 用心深いお前が飛び出すほどの何が…
応えないお前を抱いた時 お前は初めて心を許したような安らかな顔だった
かさぶたの街 夢を紡ぐ人々の波
舗道の脇で揺れるアカシアの淡い蕾
公園には新たな野良猫の家族が住み着き 人々に甘えた歓心を誘う
俺は独りベンチに座り「忘れてないよ」と呟いた