詩人:どるとる | [投票][編集] |
葉っぱを染める
色は見えないものさえも染めてくれるかなあ
たとえば死にゆく季節も
たとえば散りゆく命も
夕暮れが燃えている
空を燃やしているよ 焼け焦げたような夜
目を閉じるように眠るように逝く誰かの終わり
最後のページにたどり着いてしまっただけだ
何ひとつ おかしなことはないしこわがる必要もないのに
なぜだろうこんなにも当たり前が痛いよ
泣きすぎて 目を腫らした朝
ただ、肌の温かさを求める者だけが
勝ち得た時間 命の燃える様を 見えない色が
染めていく あざやかに
空白を埋める
アリバイが僕を証明する でも今ひとつ曖昧だ
たとえば手のひらの感触も
たとえば傷跡の痛みも
季節が移ろうのを
ただ眺めているよ 神様の気分で達観
耳をすましたのは君の声がきこえるような気がしたからだ
死ぬならば 冬よりも春を選ぶだろう
だけど僕らにはその時を選ぶ権利すらない
なぜだろう こんなにも当たり前が苦しくて
涙が止まらない 反面うれしい
ああそれでも僕らには行き先はひとつ
明日という時間 誰かが幸せそうに笑う様を 指先でなぞればひとつに繋がる
歩き出したのとおんなじ 場所に戻って来る
見覚えのある景色の中 そうやって何度でも僕は気づく
最後のページにたどり着いてしまっただけだ
何ひとつ おかしなことはないしこわがる必要もないのに
なぜだろうこんなにも当たり前が痛いよ
泣きすぎて 目を腫らした朝
ただ、肌の温かさを求める者だけが
勝ち得た時間 優しさがほら 何色にもなれない僕を
染めていく あざやかに
どうしても 埋まらない傷に
寄り添うようにしみていく。
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いつまでも 終わらない夕暮れの中を
たった一人きりで歩いた
寂しさなどはもうとうに通り過ぎて
笑顔はもう長いこと浮かべてない
何も無かったように跡形もなく
影すら残さずに消えてく 消えていく
ねえ命には 影なんてものさえないから
消えてもわからない
体はただの入れ物なんだよ 体の中に本当の自分が満ちている
だから私が消えたら私はどこにもいないよ
ここにいる私さえ私じゃないかもしれない
大人へとなる道を辿って来たけれど
大人って いつからそう呼ぶのかな
姿形は変わるけど心は見えない
ただ日ごと変わる私が人の目に映る
何ひとつ遮るもののない場所で
遠くで明かりが揺れて未来がはみ出した
ねえ私の命はこの世界にたったひとつ
そんなこと誰も同じなのに気付かないで通り過ぎる 大切なことをいくらでも見失う
だから私が私だというあかしは多分ずっと見つからない
私自身でさえ私が私だという自信さえ持てずにいるから
ただ走ったよ 息が切れるまで
空っぽのからだをもっと 私で満たしたくて 私は私をさがした
ねえ命には 影なんてものさえないから
消えてもわからない
体はただの入れ物なんだよ 体の中に本当の自分が満ちている
だから私が消えたら私はどこにもいないよ
ここにいる私さえ私じゃないかもしれない
誰も私じゃないのかもしれない。
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どうしたものかと
首を傾げる天才は
愛の前じゃ形無しさ
蛇が のた打ってる
ただの土曜日に
ただのお茶を飲む
食道を熱く滑る
ただの2時半
僕は無様で ただしいこともままならず
ずっと終わらない思い出の中に佇んだ
夕暮れの中に そっと心を置き去りにして
誰かの優しさを枕にして 寝ころんでいる
深いまどろみの中に心を浸している。
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僕は思ったんだよ
どこまでもわがままになれたらと
終わらないものなんて何ひとつない世界で
永遠を願う僕らは
恥ずべき生き物さ
尻尾だけ残して
逃げ去る 蜥蜴のように
僕は 大切なものを引き替えにして
新しい朝を 迎えた
ぱらぱらと捲る
私小説の中で続く
私利私欲を辿る
蹂躙する物語
僕も恥の多い
人生を送ってきました
文豪は僕を見て
お前も私と同じ
穴の狢と笑う
ない袖は振れない
何もない空っぽの小宇宙
夜明けを知らない人は叫ぶだろう
自分のつくったいかさまな物語の中で
悲しみと喜びが交差するこの世界で
魂ごと汚れた
僕は誰も愛せない
何ひとつ 手にすることもしないまま
空っぽの中で満たされている
見上げれば銀河を
走る 鉄道がある
それさえ幻と
僕は知っている
僕は あなたみたいに命の手綱を手放せないけど
ああ いつかあなたと同じ闇の中で
後悔に苦しむんだろうか
神は言ったよ
「そんなものあなたの都合のいい解釈、私には無関係の世界」
だから狂ってしまうのさ 無防備な命は
僕も恥の多い
人生を送ってきました
文豪は僕を見て
お前も私と同じ
穴の狢と笑う
僕は あなたみたいに命の手綱を手放せないけど
ああ いつかあなたと同じ闇の中で
後悔に苦しむんだろうか
そして ペンを
置くんだろうか
死という 形の
影を 遺して。
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少し言い過ぎたかな
けんかのあとでいつも気づくんだ
寂しくなってやっと気づくんだ
君は何も悪くないと
眠れない夜には 話をしよう
途切れないように会話を続けよう
冷めない愛なんてないことを僕は知った
何度でも何度でもすれ違っていけばいい
そしてそのたびに仲直りすればいい
何度でも何度でも 喧嘩をすればいい
そしてお互いの大切さに気づけばいい
けんかのあとで離れたときに胸の中に生まれる
寂しさに素直になれればいい。
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ネジを巻かなくちゃ
止まってしまった
時計をもう一度
動かすために
種を蒔かなくちゃ
枯れてしまった
花をもう一度
咲かせるために
甘い果実、収穫の時期を逃して
熟して 地面に落ちてつぶれてしまった
誰も そのことを知らない
種を蒔く ネジを蒔く
虹のおとずれを 待ち望みながら
僕は君を 君は僕を
邪な目で 汚してしまうよ すぐに
いくつもの歌といくつもの音楽に
無数の本で 埋もれた日々に
思い出は ただ 何も言わず僕を見つめたまま ただ見届けている
今はまだ この命はなんの光も帯びぬまま
アスファルトに 絶えず打つ雨も同じ
たくさんの雨粒の中のたったひとつ
いつかはみ出せるかなあ
芸術のように 常識をぶち破って
僕は君に 君は僕に
懐かしい歌を歌うだろう
いつか歌ってた あの歌が再びこの部屋を瑠璃色に染める
そして再び
種を蒔き ネジを巻けば
やがて動き出す
夜明けも近い。
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この世界は誰もが
顔に見えない仮面をつけているだろう
生きていくためには
傷つかないように
他人に本心を悟られぬように
嘘で心を 隠しているんだろう
悲しいときは 笑ってるふりをして
怒ってるときには
やさしいふりをして
醜い本心を 嘘で覆い隠すのさ
どんな顔してても 嘘が君の顔を
醜くゆがませてるよ 笑顔さえも どこか嘘っぽい
どんな顔してるのか 見せてよ君の心を
本当に知りたいのは その笑顔の下に隠れた すっぴんの心
雨が降ったあとのやけに湿った道路
それによく似た この街に生きる人々
景色を象る 細やかなその輪郭が
ふっと千切れたら ばらばらになる
頼りにならないその場しのぎの優しさ
さも仲良く見える人の間に見える闇
その闇の中浮かぶ刺々しい感情
けして交われない他人との距離感を 無理に埋めないで
どんな顔してても 心だけはいじらずに
化粧するなら 顔だけでいい 心はありのままで
どんな顔しているの? 見えない君の心に
そっと差し伸べられた手は 嘘のない単純な愛であればいいな
なんとなく 人と向き合うたびに
一番先に目がいく 人が見ているもの
僕の心を見透かすようなその瞳は
本当は何も見えてない ただあるがままを見つめればすぐに見失う人の形
だから、まっすぐ 向き合えない 斜にかまえて 声と声だけで会話する時代
どんな顔してても 嘘が君の顔を
醜くゆがませてるよ 笑顔さえも どこか嘘っぽい
どんな顔してるのか 見せてよ君の心を
本当に知りたいのは その笑顔の下に隠れた すっぴんの心
きっと美しいだろう。
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年老いた旅人の
最後に行き着く場所
世界の果てか
空の彼方か
夢の島か
たったひとつの
一ページ
ああ 僕は目を静かに閉じて
なにが本当か 考えてみた 旅立ちの日に
この道をやがて
辿ってゆけば 終わりにたどり着いてしまう
この道はやがて
続いてゆく先に 静かな死が待つだろう
いくつもの屍が教える 答えを
僕もいつかは受け入れられるかなあ
かすかでもいい旅の終わりに笑えるならば幸せになることなど容易いはずだ
容易いはずだ。
その一瞬、そのたったひとつの思いに
たどり着くために
生きているんだから
生きてきたんだから。
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アトリエの片隅に
立てかけられた
一枚の油絵
巧みなタッチで
描かれている
裸婦の体
なぞる曲線
なぜか
荒々しい中に
繊細さがある
わたしはわたしを
完璧には描けない
おまえもおまえを
完全には描けない
それは形のない
影のようなものです
輪郭さえも幻で
命は本当は嘘の塊
でもここにある
体はすべての答え
不思議でしょう
でもそれが
あなたがしりたがっていた真実
目をそらさないで
耳をふさがないで
わたしがわたしで
おまえがおまえで
あるということを
わたしはわたしだと
おまえがおまえだと
潔く認めるために。
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水清き 河の流れにわたしは笹舟を浮かべ
たくした願い事ひとつ
季節はただようように手のひらからすべり落ちる
濁りのない透き通った赤子の額のように
白く 輝く 決意
岩のようなかたい意志を 胸の奥に抱いたまま
少年は 追えどつかめぬ明日を追いかける
夏の暑さに 目が眩み
冬の寒さに 凍てついて
それでも 暖かな春を待ち
何度でも 何度でも
押し寄せては引いてゆく繰り返す季節の波に
わたしはわたしを乗せるのです。