詩人:どるとる | [投票][得票][編集] |
忘れたつもりでいる
遠い日の記憶は
忘れたどころか
鮮やかなまでに記憶に焼き付いている
傷跡は何度も
ひらいてしまう
些細な誰かの
言葉にだって
たやすく傷ついて僕の顔から笑顔が消える
まんまるなお月さまが輝くような夜に
とぼとぼと帰り道
自転車のペダルを漕ぐ両足がやたら重くて
家までの道が果てしなく感じるよ
それは気のせいなのかな
そんなはずないさ
心に咲いている
花がたとえば
美しい思い出だとして忘れてしまいたいような悲しい記憶はその美しい思い出よりなぜか鮮明に記憶にこびりついてる
いつまでも色あせずに
何も言えない夜は
完璧な敗北を意味する
白旗を振って
負けを認めても
許してなんか
もらえないのは
ずっと昔から
知ってるんだ
だから 悲しみを記憶の水底に沈めたつもりでいるのさ
気持ちだけはつよいつもりでいるのさ
だけれど本音では
いつも悲しみにさいなまれ 押しつぶされているんだ
声も出ないくらい
苦しいんだ
だけれど 先を急ぐには忘れたふりをして
その場しのぎの愛想で切り抜けるしかないから そうしてるだけ
いつまで 通用するかな
あと少ししたら
壊れてしまうところまで
僕はもう来てるんだ
悲しみを記憶の水底に沈められずにいるよ
沈めたつもりでいる悲しみは何度心の中で沈めても沈めてもしばらくすればまた浮き上がってくる
悲しい記憶は
気づけばまた
何気ないふりして
そこにあるのさ
悲しければ悲しいほど浮き上がってくるのも早く
軽いものほど沈まないけど 悲しみは深ければ深い悲しみほど沈まないんだ
ほらまた 沈めたはずの悲しみが浮かび上がってくる
記憶はまた悪夢のようにもどってくる
悲しみの花が返り咲き 涙が心の臟をしっとりと濡らす。