ホーム > 詩人の部屋 > どるとるの部屋 > ベンチ

どるとるの部屋


[7799] ベンチ
詩人:どるとる [投票][編集]


駅前の 色褪せた木のベンチ
今日撤去されるらしい
危険だから新しいのと取り替えられると聞いたけど
あのベンチにはそれなりに思い出があるのです

君と待ち合わせるのに目印代わりに使っていたっけ
わかりづらい場所にあったけどそれなりに重宝したんだよ

あのベンチには 誰も知らない
僕らだけの思い出が 座っているのに誰も 気づかない

はじめて口づけを交わしたことも
あのベンチは 見ていたのかなあ
少し恥ずかしい思い出だ

なぜだかベンチがトラックで運ばれていくとき
僕の目にはあのベンチが泣いているように見えた もらい泣きなんかじゃないよ

強がった僕の頬に涙がこぼれ落ちた

二人は 付き合って間もない頃は
手をつなぐことも恥ずかしかったね
ただでさえ狭いベンチの隅っこに
間に無意味に 隙間をあけて
座っていたのを覚えてるよ

少しずつベンチの隙間を 埋めていったのは
時間と人は言うだろう でも多分僕らの心が 近づいたから
距離もそれと同じように縮んでいった証だと思うんだ

あのベンチには 僕らも知らない誰かの思い出が
数えきれないほど 刻まれてるのかな

その傷の一つ一つにも ちゃんと 意味があるならいいな
ただの傷だって シミだって 大切な宝物

暮れかけた街の空遠ざかる トラックの荷台に乗せられた
ベンチにお疲れ様と手を振る僕に
座ってくれてありがとうって ベンチが言ってくれてるような気がしたら また涙が 流れたんだよ

人にはただのベンチだ
景色のひとつに過ぎないね
もしかしたら 目にも止まらないかもしれない
でも僕らには間違いなく 大切な宝物

なぜだかベンチがトラックで運ばれていくとき
僕の目にはあのベンチが泣いているように見えた もらい泣きなんかじゃないよ

強がった僕の頬に涙がこぼれ落ちた

そのときの涙さえ 何年後かには思い出になるのかなあ。

2016/05/09 (Mon)

前頁] [どるとるの部屋] [次頁

- 詩人の部屋 -