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けむりの部屋


[89] 昨日までぼくの空気
詩人:けむり [投票][編集]

放課後、
喧噪が色濃く残る静寂。
君は復習を始める。
面倒そうに。
ドアの向こうの座談場であいつがしゃべっている。
男友達や数人の女の子と、
とりとめもないことを、おかしそうに。
君の眼差しはぶれない。
背筋も緊張を感じさせない。
あの日になにがあったのかを君は感じさせない。
シャーペンがリズミカルに動いている。
窓は少し開いている。
レースのカーテンがやわらかく風にそよいでいる。
君はあいつの新しいメルアドを知らない。
でもその意味を知っている。
君は誰にも相談しない。
あいつは茶番劇にして男友達に話しているけれど。
ゆるやかな風が君の首筋をさする。
隠している緊張がほんのりとゆるむ。
目が合う。
静かな眼差しの奥に非難めいたものが見えるのは、
ぼくがあいつの新しいメルアドを知っているから。
それが全てではないにしても。
読み進めようと思っていたS・Kのダーク・タワー。
ぼくはそれをカバンから出さない。
放課後の教室が、ぼくのものではないことを感じている。
君はうなじを涼めるように指で髪をとく。
ぼくは窓の向こうに目を向ける。
まぶしい五月の張れ模様。
シャーペンがノートを走る音。
君の固い口元。
漏れ入るあいつの軽いトーン。
「お疲れさま」
一声。
返る君の押し流すような、
「お疲れさま」
押し出されるようにぼくは教室をあとにする。

2006/05/15 (Mon)

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