詩人:はちざえもん | [投票][編集] |
死ぬかとおもった。
死ぬかもしれないとおもって、
死ぬほどこわかった。
死にたくない、とおもった。
ずっとくらかったから、なにも見えなかった。
そのうち暗闇がはれて、そとに引きずりだされた。
目が見えてよかった。
うでが繋がっててよかった。
からだが動いてよかった。
生きててよかった。
いろいろ、なくした、けど、
生きててよかった。
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少年は手をひかれ
夏の匂いを嗅いでいた
不意に口走るメロディーの欠片
女はそれきり口をきこうとはしなかった
少年が何度、呼びかけても
口をきこうとはしなかった
やがて振りほどかれた手が
虚しく、その影を追う
その日、少年は小さな胸に宿った憎しみを
刻みつけるように何度も呟いた。
夏の日差しが
一瞬だけ、思考を遮った。
遠ざかる面影
その日、少年は自身の運命が
音を立てて変化した事を知った。
世界はモノクロに少年の心を覆い、
やがて灰色の空が、遠く、遠くへ伸びていく
その日、少年はその小さな胸の奥底に
憎しみだけを何度も何度も刻みつけた
「遠ざかる母の面影」
その光景は、
大事な場面で
何度も彼の足をすくう
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太陽が昇って 安らかな腐敗が始まる。
そこから二人の生活が始まった。
生があって、その対照としての死があって、
その間にあるのは、明らかな断絶。
時折、覗かせる赤い球体
誰もが皆、それを太陽と呼ぶ。
漠然と皆、それを太陽だと信じている。
そして今日も日が昇る
地平から覗く赤い球体を
僕は彼女と眺めてた
「影が遠くに伸びてって、家の中にまで浸食する!」
「よく見て!あれは太陽なんかじゃない!」
パニックに陥った彼女は
ベランダから身を投げた
そしてまた一人きり
赤い球体が輝きを増す
それが太陽ではないと気が付いた時、
僕もまたベランダから身を投げた。
それが正しい反応だと確信をもったから
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私が死んだのは五年前の事だった。
それはそれは鮮やかな季節で、
花は咲き誇り
全てが輝いて見えた。
愛する人は私の手を握り、「ずっと一緒だね」と微笑んだ。
私はと言えば季節の彩りの中で
幸せとは何であるかを知った気がしてた。
信号が青に変わると
私は繋いでた手を離して
前に、踏み出した。
happyend
なんとなく口ずさむ、あの歌。
見上げていたんだ。
綺麗な空や新緑の若葉、その総体としての風にそよぐ街路樹を。
私の顔を覗き込む貴方の悲しげな表情が
邪魔にさえ思えた、そんな美しい季節だった。
少なくともその表情は貴方には似合わない。
そう声をかけようとしたけど、
声にならなかった。
それからずっと動けない。
「あの信号が変わったら…」
そうしているうちに季節が過ぎて
雨が降って、信号が赤に変わった。
それでも私は動けない。
貴方の笑顔が思い出せない。
たぶん、それだけの事だと思う。
私がここを動けない理由。
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東京の空は狭い、と言う。
或いは四角だ、なんて事も聞く。
実際に見上げてみると、なるほど、言われてみればそんな気もするが、
ことさらに強調する程のものではないようにも思われる。
きっと、その言葉、それ自体が
寂しさや孤独感の比喩表現、みたいなものなのだ。
ただそんな詩的な感傷に浸りたいだけなのだ。
五月、晴れ、少し暑い。でもジャケットは脱がない。
休日、午後、少し過ぎ。休日のありがたみが身に沁みる。
久々に会う君に
なにを話そうか、さっきまでそんな思いばかりが渦巻いて
それが馬鹿に照れ臭く、だったらいっそ何も考えずに臨んでやれ、と
誰かにいい訳でもするように
君の到着を待ちわびる。
そう、待ちわびている。
気にしないようにと意識するほど、
僕は目の端でもって
目の前で行きかう人々の群れの中に
君の面影を探している。
故郷を離れるという事、それは僕自身が取捨選択した人生で、
寂しさをまるで感じない、と言えば嘘になる。
でもさ、今は毎日に必死で挑んでる。
感傷に浸る時間はそれほどない。
君と何を話そう?話したい事がたくさんあって、でも何を話せば良いのかわからない。
手を振る君の姿が大きくなってきた。
僕も思わず手を掲げ、でもそれが恥ずかしくてすぐ頭を掻いた。
時間は人を変える、なんてよく言われるけれど、
僕はその言葉も信じない。
根拠なんてない。
探せばあるかもしれないが、
今はどうでもいい。
「東京の空は狭いって言うけどさ…」
見上げればその殆どが空で、その他 鳥が少し飛んでいた。
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世界が終るまでの数時間で、僕はまずコーヒーを啜る。
それからお気に入りのパンを朝食に、お馴染みのニュース番組。
繰り返される日常が、時に狂気に変わるのを、僕は知っている。
それからお気に入りのジーパンに、黒のジャケット。
バッグに詰め込む「ライ麦畑で捕まえて」これだけは欠かせない。
繰り返される日常は、時に嫌悪感を抱かせる事がある。
ドアを開けば朝の空気が、僕の鼻腔いっぱいに広がる。
それすら世界の終りの兆候なのだと、妙に納得して、電車に乗り込む。
繰り返される日常に、気が付いてしまった瞬間、僕は決意した。
何も見たくない、何も聞きたくない。
聴覚をイヤホンで塞ぎ、視覚を薄ボケた伊達メガネで遠ざける。
「認めたくないものばかりが、楽しげに街を彩り、世界を踏みにじるんだ!
掌から砂が零れ落ちていくのを、ただ眺めていろというのか!」
規則的に揺れる電車の中では、毎日がルーチンワーク。
安寧を求めれば、これも心地良いものなのかも知れない。
それでも、世界が終るのは変えようがない真実なのだ。
そうだ、僕が終わらせる世界は、すぐそこにあるんだ。
中指を立てる。何も変わらない。
あと、もう少し、
丘の上の雲を 掴みかけている。
僕が終わらせる世界が、すぐそこまで来ているんだ。
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猫がうるさい。
秋風と潮騒。
それは起きぬけの午後の日常。
餌を与えて、頭を撫でる
猫、あいつは侮蔑に満ちた表情で
ただ「みゃあ」と鳴いた
「お前もか」と僕は笑う。
教室を支配する、
嘘と欺瞞と没個性。
気に入らないから、ガラスを叩き割って回った。
腫れ物に触るように、遠巻きに眺めてる
「気狂い」と言われて、それは褒め言葉だ、と心の中で叫んでた。
談笑と嘲笑、安易な肯定、内実は全否定
それらすべてが気に障る。
もう息は上がっている。
手持無沙汰でうわの空、
教室の端っこで眺めてた変な雲。
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水の音に包まれて 羊水の中を泳ぐような 感覚に溺れてる
温かな体温 赤みを帯びた頬 白く、しなやかな指先
そういった温かさ 血の通った優しさに 僕は溺れているのだろう
遠く幼い頃に感じた 何者にも変えがたい存在を 君の中に投影している
回る回る 意味も無く回る その意味を知る事が 不幸でしかなかったとしても
柔らかな肌を枕に 少年のように 夢を語る やがて疲れて その優しさにまどろんでいる
それは深海で息づくように 深く深く 熱を放つ ぬくもりの中で 呼吸を始める
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三秒半のイメージを大切にして
踏み切る右足から、体全体の躍動を意識して
空の青さと漂う雲が近づいた、そんな気がした宙の時間
ハードルを飛び越える、その一瞬を意識して。
その躍動を意識して。