詩人:はちざえもん | [投票][編集] |
三羽のカラスが空を行く
茜色した空を行く
海を目指した一羽は
その青に、その美しさに
生まれた空の青さを思い
海の深くへ溺死した
今はただ魚影だけが漂う
山を目指した一羽は
紛う事なき緑に その神々しきに
荒ぶる神の 猛り声を聞いた
自分の行き着く場所を知り
森の深くで餓え死んだ
街を目指した一羽は
生まれた故郷の青さを忘れ
自分の行き着く先は知らず
食を漁り、涙を忘れ、
ただ、生きている
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彼女が写す写真にはいつも人がいる。
痩せ衰えた腕をしゃんと構えて
今日も彼女はシャッターをきる。
彼女の切り取る風景は笑顔がいる。
日に日に衰える体を支えながら
今日も彼女はシャッターをきる。
「元気だったあの頃には見えなかった景色が、今は見えている
世界はこんなにキラキラ輝いている
だから、これからも生きる皆には
それに気が付いてほしい」
そういって彼女は笑いながら泣いた
痩せた腕にカメラを抱きながら
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焦って空回って失敗して、
時流に乗った者が何事か成し遂げるのだと先生は言ったけれど
時流を作り出すのも、そもそもが人間の役割なんじゃないか、と
そこである種の別離。
知行合一なんて気取っていたわけじゃないけれど
行動はある種の狂気を帯びていなければ何も成し遂げられないわけで
そのためになら人生を棒に振っても本望だ、とさえ思いつめていた。
そして企てが敗れて、
いや、敗れるまでもなく四散して、
コミュニティにおける意思継続の難しさと、考えの共有の難しさ、
端的に言えば口だけ根性なし野郎の存在。
そういった馬鹿らしさには飽き飽きして吐き気がする。
結局、何も変える事が出来ないくせに
「自重」だとか「慎重」だとか「熟考」だとか
結局、何も変える意思がないくせに
革命家の旗手にでもなったつもりなのか
行動こそ創造、創造とは急進。
結局、同士なんていない。
あるのは己独り、行動たらんとするエネルギーなのだ、と
ほとんど自暴自棄、人生を棒にする行動に出た。
企て破れて五里霧中。
口だけ嘘つき野郎と何も変わらない自分。
勢い込んでいた分、さすがに落ち込んだ。
たぶん、生まれて初めて落ち込んだ。
昔から出来ない事はない、と思ってた。
事実、出来ない事なんてなかった。
だから現状に満足できなかった。
糞みたいな世界に満足できなかった。
このまま普通に就職して
自分を押し殺して糞みたいな世界の螺子になる。
或いは近しい人に迷惑をかけ散らかして、
狂気を帯びた行動者たらんとする。
どっちも悪くない。
でも最高じゃない。
ほとんど潰れかけていた僕に
気が付かせてくれたのは先生でした。
企て敗れて五里霧中
遠くで見えた先生の背中
「臆病者」と罵った僕を、
一番理解してくれたのも先生だった。
企て破れて五里霧中
或いは、
企テハ破レテ晴天ナリ
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砲撃はアザギ色、硝煙の匂い
音は無音、とうの昔に聞こえなくなった
地が震えた 砲撃がどこか地を貫いた
土色した色彩と所々散らばる赤
標準を合わせる真っ黒な瞳
銃口から覗き込んだ僕は、
どんな表情をしている?
砲撃はアザギ色、消えかけているそらの色
銃口が飛沫をあげた 目覚めれば赤ばかり
春はすぐそこまで、
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僕はその様をどう表そう そう思い悩む時間 或いは唯一、喜びを見出せる時間
色とりどりの花が乱れ咲き 地表は花だらけとなった
人は滅んでしまった
導かれるまま 光る魚影を追いかけて やがて深海へと辿り着いた
春夏秋冬 巡るように浮泡は昇る
漆黒の闇に抱かれて、無音の海に包まれて、
思い起こすのはいつも同じ 花咲き誇る そこに至るまでの物語
燃え尽きた星が消えてなくなるように
考えることをやめた人間は、自ら滅び去るのかもしれない
爆風は咲き誇り 地表に降り注ぐ
光の届かない深海で ふと木漏れ日のような眩さを感じる事がある
眉唾傾げた骸が語る
「結い残した念が きらりと光ることがある それがあの光の正体さ
地表の光が懐かしく思えても 何度も仰ぎ見てはならない
いずれ喰われて 目を焼かれ そのうち存在すら希薄になってしまうから」
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緩やかな放物線を描く白球 追いかける後姿
緩やかに消費されていく時間の中で ふいに 僕に残された時間を数える
いのちの名前を 二度三度 呼びかけて
いのちの放つ体温を感じる
新緑の鮮やかさが 当たり前のように枯れ行くように
いつか消えてなくなることを 受け入れていくのだろう
青空に曲線を描くように
真っ白なキャンバスにペンを走らせる
鮮やかさだけでも形に残しておきたいと思う
僕自身で切り取った風景の境界線を
そこで感じた喜びや温もりを
そういった優しい感情を
君に残し置きたい。
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僕の魂は雨夜の軒下で佇んでいて、抜け殻となった体だけが生温い雫を全体に受けていた。
雨足は強まるばかりで、まるで遠慮というものを知らない。なにより月の見えない闇夜はすれ違う人々の表情も物憂げで、しとしとと絶え間ない雨音が僕の心を塞いだ。
「さて、何処へ行くのですか?」物憂げな人々は、足早に帰路を行くようにただ黙然と歩いてく。まるで何一つ見えていないようだ。
ふとした瞬間に迫る雨音で、僕の目は醒める。何か下らない夢を見たようだ。果たして軒下で佇む雨夜の魂になど、物憂げな人々が気付くはずがないではないか。
心を塞ぐその正体は、恐らく僕に下らない夢を見せた張本人。その廊下を軋ませ這い回る少女の呻き声が、僕には泣き声に聞こえてならなかった。
座敷に迫らんとする彼女の眼は、笑ったり泣いたり忙しそうである。今にも迫らんとするその形相・這いずりのわりには、長いこと同じ場所から動いていない。
始めのうちこそ気味悪く泣いたりもしたのだが、その内慣れてしまってどうという事もなくなってしまった。
彼女の方も張り合いがないのか、ルーティンワークの如く同じように笑い、同じように泣く。
新月の夜は物憂げな人々が白装束を真っ赤に燃やす日。もう何度繰り返した事だろう。そうやって炎に魅入られて、その内メソメソと泣き出すのだろう?
いい加減、彼女を異形と見るのを止めてあげたらいいじゃないか。そうすれば彼女も毎度、同じように泣き笑い事務作業のように繰り返すこともしなくてよくなり、晴れてその持ちたる形相で持って僕の眼前に迫れるだろうに。
物憂げな人々が声を枯らし終えた頃、僕も彼女も新月の夜空を仰ぎ、その内苦しそうに声を挙げながら、いつのまにかのうなってしまった。
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世界が終わる五分前に、己が愚かさを悔い改めよう
世界が終わる三分前に、溜め込んでいた洗濯物を洗う
世界が終わる一分前に、その退廃の美を詩にしたためよう
そしてその瞬間には、世界がこれから終ることを
なるべく誰にもバレないように、僕はいつもの様に目覚ましを止めて学校へ行く
あたかも世界はこれからも続くように。何気ない日常の断片であるかのように。
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昔話に おあつらえ向きの陽気さ
あの日、死神の日向ぼっこ 確かに見たあの化け物は
最早、恐怖を通り越した人の織り成す滑稽な何か
砂上を天下と、揚々駈け出す幾許の空
夏草と荒城、勝どきを挙げるのは誰だ
冥土の土産に抜け駆け功名
縁側語る昔話を
思い返して夏が終る
居場所を見つけたなら、その時は
高らかに泣け
勝ち負けなんてあってない物よ、なんて縁側で呟く
夢の如き日々が去り、思えば儚き幾許の名
それぞれが相応しい場所で役割を演じる
そこに人がいて時代が彩る
死神のアクビを横目に 儚き夢を見た
夏が終わりを告げる
潮騒の音、夏雲が降りていく
夕日に例えて孤城落日
向日葵の匂いを振り撒いて、
爺が死神相手に縁側で笑っていた。
落ちて覚めない夢ならば… 夢は遠き幻に近し