詩人:波瑠樹 | [投票][得票][編集] |
明けても暮れても
彼の左手には本がある。
親指でページをめくり
小指で押さえる
右手は時折
眼鏡を押し上げたり
無造作に伸びた前髪を
払う役目を担う。
自販機でミネラルウォーターを買い、
通学路に面した公園の
いつものベンチに腰掛ける。
彼の日課だ。
しおりに手をかけ
ページを開こうとしたその時、
頭上から少女の声が降りた。
目線を少し上げると
赤茶けた栗色の
少し癖のある髪がある
彼は、数えきれない程の
膨大な言葉を知っている
知っているはずだった。
少女の澄んだ好意は
彼の心を
まるで幼子の様に
純真に戻し、震わせた‥
少女はとても美しく
彼にはもはや
言葉の引き出しは開かず、ただ少女を見上げるしかない
少女は柔らかく悪戯に
彼に微笑んだ。
彼もわずかに微笑み返す。
ほのかに熱く上気した頬が、
これが恋の始まりだと
感じさせていた‥。