詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
街の駅は土砂降りで
私はゆっくり歩く、晴美ちゃんを追い掛けて
どこまでも階段をかけ昇る
ホームにはハルミちゃんがいた
短い黒髪が、濡れて
まっすぐ線路の闇を見ていた
ハルミちゃんは綺麗だった
黒いキュロットに ベージュのカーディガン
細い、華奢な足
ハルミちゃんはとても綺麗だった
私は汚いスニーカー
ずぶ濡れの、ダサい女
ネズミみたい
ハルミちゃんは
同じずぶ濡れでも
白ネコみたいに綺麗で
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ああ 神様、
私から死を奪わないで下さい
いつか死ねるから
今を愛しく思えるのです
いつか死ぬから
今をがんばれる
いつか死ぬから
風が気持ちいい
いつか死ぬから
この世のすべてが楽しく
眩しい
どんなに愛してもいつかすべて無くなるものだから
大切にできる
そう、無限でないことこそが
私たちの原動力
不完全は楽しい
完全な神が作った世界に
完全に、不完全な私たちがいる
不完全だから、すべてが必死に愛おしい日々
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
横になれば僅か一畳分くらいの
肉の塊
でくのぼう、私
でくのぼうは、今日もあれこれ手足を動かして
なにやら狭い空間で生命活動を続けている
日々、家族と呼ばれる人間たちのために食糧を調達し、加工し、容器に入れて出したり、片付けたりする、そして時々変な声を出したりする
多分、でくのぼうは燃えるゴミに出せるだろう(火曜と木曜)
付属品の眼鏡は燃えないゴミ(水曜のみ)
たった一畳分の、でくのぼう
ゴミになっても世界は普通に回るだろう
それでもきっと、でくのぼうは 感謝している
でくのぼうなりにいっぱい遊んだし
公の場で詩もたくさん書かせてもらい
高級チョコレートも食べたし
ブルーチーズも数え切れないくらい
でくのぼうを愛してくれる人に会えたし
だけど ここ一世紀くらいでずいぶん人道的な世の中になったので
でくのぼうは月曜も木曜もゴミに出されずにすむのだ
そうしてあと数十年せっせと手足を動かして
良い事や 悪い事や
そのどちらでもない事を 行い
いつかは燃えることだろう
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
本当に強い人は
きっと、みんなと同じように弱い
けれども
自分の弱さや
無能さや
浅はかさや
汚さ
狡さ
暗さ
自分のそれらを
真正面から受け止めている
言い訳なしに
誰のせいにもせずに
そのまま冷静に受け入れている
改善の努力とか実行とか精神力とか
そんなもの以前に
ただ ただ 目を背けず
ありのままの自分を
先ず、認めている
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
おもしろい詩をよんで
素敵な詩を読んで
深く素晴らしい詩を読んだ
私もそんな詩が書きたいと思った
しかし頭を振り絞っても 書けなかった
結局、私が書けたのは
私が書きたい詩だけだった
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
私が生まれてなかったら
世界は元気に、
世界だっただろう
私の家族は子供が一人いないだけで平和だろう
私の友達は私と過ごした時間分、誰かと過ごすか、別の楽しみをしただろう
「いない私」を求める人はいないだろう
存在しないものは求めようもないのだから
誰も私を望まず、欲せず、攻撃せず、否定せず、認知せず、
世界は毎日クルクルまわるだろう
よくよく考えれば
孤独なんかより遥かに恐ろしいことだ
しかし私達は、
無だった
そう、だから
あなたの考え、悩み、感情、行い、苦しみ、戦い、歓び、それらそのものこそ
「答」だ
結果でも、過程でも、良し悪しでも、ない
無から来た、唯一の有形物
「答」
世界は、無い
あなたが、在るだけ
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
あの逃げたかった日々が
今になってこんなに愛しいとは
あの頃は毎日が苦しかった
だけどその分、濃厚な人々の愛にもめぐり合えた
苦しかった分、日差しがまぶしかった
ねえ それをあの時わかっていたら
もう少し頑張れたのにね
結局私は、すぐ逃げ出していた
夏の駐車場はとても暑かった
ねえ どうして 人は
二度と手に入らないものを想い続けてしまうんだろう
淡い紫の空と、忘れてしまったメモ
あの季節の君の強い眼差し
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ねえ 本当に強くなって
いつかもう一度
会いにいくよ
久しぶり なんて
空々しい挨拶やめてね
もう一度
あの消えそうで
苦くて甘い
生暖かい午後を過ごそうよ
心配ないよ
すぐに帰るから
私はきっと
近づく、電車の音をきいてる
知ってるよ
すべては変わってしまうんだって
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
自転車で 下り坂を走る
ぐんぐん景色を追い抜いて
擦れ違いの
ワンコをつれたおじさんも
子供も
塵も
風も
すごいスピードで振り切ってく
ただ
太陽と雲だけは振り切れなかった
どんなに急いでも
僕らが僕らを
忘れないように
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
壁があるぞ、と思う人がいる
驚いて叫ぶ人がいる
これは小さい小川だと思う人がいる
いいや、地の果てまで続く砂漠だという人がいる
何やら面白いパズルがあるぞ、と思う人がいる
これは壁じゃなく近道だと思う人がいる
これは金鉱だと思う人がいる
見なかったことにして引き返す人がいる
恐れおののき逃げ出す人がいる
誰かを呼んできて
なんとかしてくれ と頼む人がいる
自分がどうしたいのか分からず じっと佇む人がいる
泣き出す人がいる
可笑しいと笑いだす人がいる
そのことにすら気付かない人がいる
そこに確かに、思い通りにならない事が
在る