詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
今朝は、六年に一度の
燃やしたくても燃やせないゴミの日だったのに
あっさり寝坊した
目玉焼きの黄身の部分を かじったら
パチンコ玉が四つも出てきて
すごく嫌な予感がした
トイレに行くとやっぱり
トランプでできた便器に
落ち武者が座ってるし
散歩に出ると
コンビニの店内から駐車場まで
アマゾネスの家来たちが占拠して
アマゾネスは化粧品を買いあさっているし
母が悪魔にさらわれたと父から電話があり
私の左目と交換だといわれ、赴いたら
新手の詐欺で
環境と中国人に優しい壁紙を
欲しくもないのに買わされて
家に着くと閉め忘れた缶から、お菓子たちが出てきていて
私のお気に入りの恋愛映画を勝手に観て、みんな大号泣しているとこだった
チョコレートが大号泣したせいで
家中がココア色になってしまい
掃除をやっとの思いで終え
こんな日は早く寝るに限ると思って布団をあけると
絶滅危惧種のシベリアトラが先に床についていた
よりによって妊娠中のメスだし…
仕方ないから
シベリア行きの飛行機をネットで予約して
トラを入れる鞄を急遽
特注で作ったので
ヘソクリはなくなるし
けれどシベリア空港にメストラの夫が迎えに来てくれたお陰で
少し助かった
メストラに
オーロラ見ていかない?
って 誘われたけど
明日も早いので断った
ほんとに今日は
全くついてない一日だったなぁ
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
究極祭のお知らせ
日時 ×月×日午後1時
場所 △△駅前広場にて
究極なものをお見せ致します。参加費は無料。
是非お越しください。
夏のある朝
こんな奇妙な葉書がポストに届いていた
究極なもの?
確かに
究極祭だけに
その日
私は葉書を持って
究極祭に行ってみた
会場はすでに多くの人々で埋め尽くされて
物凄い湿度と熱気だ
人込みを掻き分け
やっとステージが見える
場所に出た
開始時間を、すでに20分過ぎた
何も始まらない
暑さも手伝って
苛々する
脇でスタッフらしい人が大道具を持って
コソコソ準備している
前のおばちゃんの下げているビニール袋に
小さい虫が
入ろうとしていた
私は黙って払ってやった
おばちゃんは
まだかねぇ…
究極…
と呟いていた
私は一体何を求めて今
ここに立っているのだろう
人々をこの真夏の会場に鮨詰めにしているものとは
一体、何なのだろう
ジットリと首に張り付いた汗を拭う
一時間が過ぎた
前の客がどうやらクレームをつけ始めたらしい
それは瞬く間に会場全体に広がった
究極を出せ!
究極! 究極! 究極!
究極! 究極! 究極!
人々は
罵声を浴びせ続ける
凄まじいエネルギーだ
私は、怒りに荒ぶる人々を押しのけ
会場を去った
缶ジュースを買った
猫がうずくまって
体を舐めている
そっと
つやつやの背中を撫でてやった
猫の神聖な瞳
空き缶のへこむ
ペコ、という音
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
子供がしゃがんで
ブロック塀の穴を
じっと見ていた
何が見えるの?
聞いてみた
……
私も覗いてみた
ただ湿った
暗がりに…
何にもない
……
まだ見てる
黒い二つの瞳を
キラキラと
一点に集中させて
アインシュタインが
相対性理論を完成させた瞬間
こんな表情をしていたのかもしれない
子供はじっと
すみっこを見ている
私は 生まれてから一度でも なにかにこれほどの
純粋な情熱を
抱いたことがあっただろうか
子供は じっと
すみっこを見ている
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ねぇ、お母さんは
私を許してくれる?
まだ私のこと好き?
私…
いつも口論して
酷いこと言って
お母さんを追い詰めたね
なんて親不孝な娘
昔、約束守ってくれなかったこと
いつまでも
根に持って
頭に浮かぶのは
してくれなかったことばかり
恩知らずな娘
どうしてお母さんを許してあげられなかったんだろう
私が昔
過食症の時
お母さんの作ったごはん 吐いちゃって
それがばれちゃった時
吐きたいだけ
吐けばいい
また作ればいいんだから
って言ってくれた
語尾は泣きそうになって
わざと気丈に
立ち去った
お母さんの作ったおかず
すごく
すごく美味しかったよ
なのに吐いちゃって
ごめんね
私がお母さんに少しも妥協出来なかったのは
一番大好きだったから
100%解り合える親子になりたかったの
なんて
ただの甘えだね
お母さんはプロのカウンセラーじゃない
私を受け止めきれない時だってある
不器用な凡人
精一杯生きてる女性
私は彼女を
私という形の違うピースに
力ずくではめ込もうとした
お母さんのピースは
もうヨレヨレになって
しまった
私とお母さんは何度も
喧嘩した
ある日いつものように私が問い詰めてたら
お母さんは
急に洗面所に行って
ピシャと 戸をしめて
わんわん泣いた
子供みたいに
私も涙と鼻水を床に垂らして
わんわん泣いた
死にたい
なんて言ってごめん
お母さん
ごめんね、
ごめんね、、
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
家内が大きな秋サバが食べたいと言った
俺は釣竿 片手に
海へ行った
雨の海で かなり粘って
吊り上げたのは
パイナップルのような赤ん坊だった
俺はがっかりして 秋サバを 諦め
その赤ん坊を餌にして
でかいサメでも釣ってやろうと意気込んで
また粘った
しばらくして
手応えが無いので
諦めて帰ろうと
竿を引き上げると
パイナップルのような赤ん坊は
両手に一匹ずつ
大きな 秋サバを持っていた
仕方がないから
パイナップルみたいな赤ん坊を
家に連れて帰った
家内は喜んで
乳をやりだした
俺はその赤ん坊が
どうも胡散臭くて
抱っこするのは嫌だった
なにか少し怖かった
名前は雨サバがいいと
家内が勝手に決めた
雨サバは成長し
実によく働いた
あるとき、家内がまた
秋サバが食べたい
と言った
雨サバは、
秋サバ、俺が採ってくる
といって
出かけていった
俺は
パイナップルみたいな
赤ん坊はもう要らないぞ
と言った
雨サバはそれきり戻ってこない
家内は秋サバが大嫌いになった
俺は、いまだに悔やんでいる
あの時 あんなこと言うんじゃなかった
俺は本当は
雨サバを大切に思っていたんだ
俺は、父親失格だ
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
死体のタワーが最近低くなった
つまんない
この街の子供たちの
唯一の遊び
死体滑り
もっともっと
高いところから
滑りおりたら
なんてスリリングなんでしょうね!
大好きなあの子と手を繋いで
何度も
何度も
滑り下りる
ママに
もういい加減にしなさい!
って言われるまで
だから
もっと山になればいいのにな
ずっと
ずっと
高く どこまでも
空は青くって
雲は白くって
風はいつでも優しい
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ところできみは、
さっきからどうして
泣いているんだい?
僕の国では涙を流せる人は稀だから
なんだか羨ましいな
僕はね、幸せの国から来たんだよ
ここから、ずっとずっと遠くにあるの
僕の国では幸せしかないんだ。
えへっ
すごいでしょう?
あのね、僕らのご先祖様はね
不幸なことが大嫌いだったんだ。
だから不幸な事は全部無くしちゃったの。
それでね、ついに国ぢゅうから不幸が消えたんだ
だから不幸ってどういうのか僕よくわからないんだけど…
幸せの方がきっと素晴らしいんだろうね!
僕の国では
家族も、結婚も、学校も
仕事もないんだ。
全部不幸の素になるらしくて
王様がなくしちゃった。
それでも、万が一不幸なことがあっても大丈夫。
僕ら、楽しいこと以外ぜんぶ忘れちゃうんだ!
それに僕ら、死なないんだよ!
死は不幸の中でも一番の不幸だったらしいんだ。
だからずいぶん昔に
死は、無くなったんだよ
僕らは、永遠に好きな人たちだけと
遊んだり、話したりして
幸せにすごしているの。
きみも、一緒に来る?
涙も、二度と流さなくていいんだ。
死だって訪れない。
ねぇ、こっちの世界より絶対楽しいと思うな!
ね?僕の国においでよ!
でもね、僕らの国に来たらきっと二度と戻れなくなるけど…
大丈夫。
みんなすごく優しいんだ。
寂しくなんかないよ。
え?愛するって?
聞いたことないなぁ?
それってどういうこと?
すっごく幸せなの?
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
赤ん坊が産まれました!
日本列島が、ちびっちゃうくらいの爆音とともに
アメリカは第三次世界大戦が始まったかと
びっくりして
跳び起きた
赤ん坊を見て
慌てて
持っていた大砲を
ケーキに代えた
赤ん坊が産まれました!
銀河系の軌道がズレるくらいの
産声というか
雄叫びを発して
UFOも光の信号を祝福モードに慌てて変えた
シンバルの音とともに
飛び出した赤ん坊は
色んなものを
バラバラとこぼしながら
体中にクラッカーの残骸を絡ませて
お祝いのプレゼントの山を蹴散らして
小さな手に
虹色のバトンをにぎりしめ
次の赤ん坊に手渡す
この同時多発的な誕生リレーは
留まることなく
レコードは回り続ける
邪魔だよ!どいて!
バトンの行く手を阻んじゃいけない
おぉ今度はライオンの赤ん坊だ
さぁ、走れ!
サバンナを越えて、
次はチベットのウサギまでさ!
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
『おかえり』を
自分に言うのが好き
靴下をぬいで
洗面台のランプをつけて
髪を解かす夕方が好き
ジブンていう、高飛車な響きが好き
トマトの傾きのいちばんセクシーな角度が好き
レモンの優しい冷たさが好き
空を見上げた格好の
女の子が好き
恋人の揃った前髪を
ぐしゃぐしゃにするのが好き
友達の鞄の中を見せてもらうのが好き
礼儀正しく吊り下がった
電車の広告が好き
延々続くありふれたポップミュージックみたいに
流れて漂う私
どうしたって
やっぱりつまんないかも知れないけど
テノヒラ
広げて
真ん中に
大好きなものを乗せて
香りや感触を確かめること
それを好きと想うこと
またひとつ増えた
瑞々しい真実
巨大な世界のはじっこで
ピンボールはゲームオーバーだけれど
アクセクしてる私を見つけた
神様の上品な苦笑
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
鋭い陰をふわりと太陽がつつむと
優しいgrayになった
誰かがふっと微笑んだように
みえた
窓の向こうの景色は絶えず
呼吸していた
世界中のすべての窓は
呼吸をする
アイツの部屋からは駅がみえるはずだ
喧嘩ばかりで
思いきりいいたいこと
いっちゃったアイツに
ゴメンって そろそろ
云う頃合いだ
酷く偏屈なアイツは大概
何も覚えてないふりして
いや本当に何も覚えていないのかもしれないけど
見下したみたいにはにかんで
またギターをいじる
タバコを取り出す
空気の澄んだ
日曜の明るい夕方
スーパーへ向かうお母さんと子供
駐車場の犬