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剛田奇作の部屋


[185] 浴槽
詩人:剛田奇作 [投票][得票][編集]

ぬかるんだ浴槽に
生ぬるい夢をはり

しなびた性器を垂れ下げて男は浸かっている

これも毒のような眠りに立ち向かう儀式である


男はいつまでも
浸かり続ける


内蔵も眼球も完全に冷え切って霧のように溶けていくけれども

眠りはこれ以上に寒いことを男は知っていた


最期の骨の微塵が
溶解しきるその直前

男はざぶりと上がる
凍る夢を滴らせ

男はしづかに
欲望の形をした蛇口をひねり

時間というシャワーを体中のシワや間接に念入りに染み込ませる


眠りに
煮えたぎる虚無に向かうために


男は腐っていた夕食を吐き出すわけには行かず

かと言って飲み込めもせず
肺の中に押しやる


死にかけの金魚の小尾のように垂れた首の皮をいじりながら


男はただ
虚無を足元に広げ
呆然と立ち尽くしていた


男はただ


遺された唯一の温かいもの―…自らの心臓を祭壇に置き


廃水の行く先に詰まっている明日からの
簡素な抱擁を求めていた






2009/01/27 (Tue)

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