詩人:剛田奇作 | [投票][得票][編集] |
ぬかるんだ浴槽に
生ぬるい夢をはり
しなびた性器を垂れ下げて男は浸かっている
これも毒のような眠りに立ち向かう儀式である
男はいつまでも
浸かり続ける
内蔵も眼球も完全に冷え切って霧のように溶けていくけれども
眠りはこれ以上に寒いことを男は知っていた
最期の骨の微塵が
溶解しきるその直前
男はざぶりと上がる
凍る夢を滴らせ
男はしづかに
欲望の形をした蛇口をひねり
時間というシャワーを体中のシワや間接に念入りに染み込ませる
眠りに
煮えたぎる虚無に向かうために
男は腐っていた夕食を吐き出すわけには行かず
かと言って飲み込めもせず
肺の中に押しやる
死にかけの金魚の小尾のように垂れた首の皮をいじりながら
男はただ
虚無を足元に広げ
呆然と立ち尽くしていた
男はただ
遺された唯一の温かいもの―…自らの心臓を祭壇に置き
廃水の行く先に詰まっている明日からの
簡素な抱擁を求めていた