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たかし ふゆの部屋


[22] クジハシさんとササキさん
詩人:たかし ふゆ [投票][編集]

アルバイト募集のチラシが無造作に置かれていて
ああ、春だな、と思う
毎年こんな感じで
とりとめもなく
根拠もなく
何にもないまま、春だけを感じている

広い世界の
その中の小さな島国の
ほんの些細なひとところの
更に片隅で
男がたった一人で生きていく、という大変さと不便さ
手に職はない
だのに
生きていけるのだ、ということだけを証明したくて
走り続けている
猛然と
漠然と

俺はクジハシさんが好きなので
バイト先で必ず、クジハシさんを積極的に呼ぶ
意味もなく
理由もなく
何度も
何度も

前へ進むために
一呼吸だけ置く、という理不尽さと優しさ
俺は自分に甘いので
テキパキと動き、呼吸し、進み続けるクジハシさんに

ササキさん、

と呼ばれるだけで
動悸がする
動揺する
ああ、情けない
ああ、世は無情
俺は無言で叫ぶ


しかし
クジハシさんは、多分そうでもないのだと思う

2016/03/19 (Sat)

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