詩人:千里 | [投票][編集] |
チリ―ン
風鈴が鳴った。
この音を聞いたのは、久しぶりだった。
丁度この時期だったかなぁ。
大好きな彼女が、眠った日は_____
おれは、彼女に逢いたくて、彼女を探して、ここまで来た。
何も告げずに、どこかに去ってしまった彼女を、あの頃のおれは、引き止めなかった。
あぁ・・・・・・。彼女が愛しい。
愛しいとは、なんて苦しい感情なのだろうか。
「誠・・・・・?」
病室で、彼女は小さく言った。
あの頃の明るい笑顔は、何処に言ってしまったのか__?
遠くを見つめる様な、その生気のない瞳。
変わってしまった。何もかも・・・・・・・・・・・。
戻れないのに、彼女は言う。
苦しいのに、彼女は笑う。
そう。彼女は、治らない病気に、もうすでにかかっていた。
助からないと知っていて、おれは有名な医師を尋ね、何とかならないかと、聞いてみた。
無駄だった。
だからおれは、いつも彼女の側にいる事を誓った。
彼女を、少しでも安心させる為に__。
ある日、彼女は言った。
「×××××。」
彼女の声を、もう6年も聞いていない。
もう聞けないだろう。
遠い遠い、記憶のカケラだ。
あの時、君が言ったのは・・・・・・・・・
『ありがとう。』
チリ―ン
また、風鈴が鳴った。
風は、久しぶりに涼しかった。
次にこの音を聞くのは、一体いつになるのだろう