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はるかの部屋


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詩人:はるか [投票][得票][編集]

彼が産まれた時の記憶はない
まだ私が物心つく前の話だ


もみじの様な小さな手は
何とも言えず愛らしく
私は時々その手を噛んだ


何故と聞かれても困る 
ただ可愛くて
ただ噛んでしまう
それだけだ



学校へあがる頃には
私の世話焼きぶりは板につき
一端の母親代わりだった



アイロンをかけ
靴を洗い
休みの度に自転車にワックスをかけてやった



イジメられたと聞けば
どんな相手でも仕返しに出向いたし
毎晩彼が眠りにつくまで
知ってる限りの物語を話して聞かせた



もちろん人並みに喧嘩もした
両手を組んで力くらべもしたし
取っ組み合いだって
私が負ける事は良しとしなかった




でも小さな弟は
当たり前だけど、
いつまでも小さくはいなくて



バスを乗り継ぎ
手を引いて通っていた病院も
その成長と共に
訪れる必要もなくなり


一緒に遊んだ空き地や川や
その辺に転がっていた石コロすら
姿を隠していった



時間は絶えず
流れていくものなんだろう



緑は風を運び
水は土を運び
時は人を大人へと導く





二人で登った桜の木は
今でも
あの場所にありますか




2017/12/15 (Fri)

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