詩人:さみだれ | [投票][編集] |
何も持たない空は
青くなかっただろう
彼女が見上げていた
あの星も暗がりへ
私が歩く
あの階段もどこにもなく
だから思うのか
星になりたいと
彼女が見上げていた
あの星ほど明るく
何も持たない人は
生まれてはこないだろう
彼女が見つめていた
あの頃の手のひら
私は今も
あの手を離さず
だから思うのか
「死にたくない」と
彼女が見つめていた
あの手ほど温かく
優しくあろうと
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
「いつか戦争がなくなるといいですね」と語る
私たちの世界平和
ミサイルを飛ばせば
月に行けますか
クレーターの真ん中に家を建てて
犬をね飼うんです
あなたたちのように
何食わぬ顔で余生を送ります
そのまま月ごとよその銀河に移りたいのですが
構いませんよね
もしあなたたちが滅亡したくないと言うのでしたら
そのミサイルに花をびっしり詰めこんで
天の川の方へ放りなさい
私たちの世界平和は
戦争と共に捨てるべきだと
私は思うのです
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
いのちの頬を
伝う琴線が
いつまでもあなたを奏でている
息をするように
咲いた花をごらん
いつからかあなたを待っているようだ
それはこの世界の
あなたへの愛情
空が続いているのは
あなたが帰ってくると信じたから
夜の背中を
さする風が
いつでもあなたを優しくさせる
眠るように
潜ったクジラをごらん
いつかまたあなたに会えると信じているよ
それはこの世界の
精一杯の愛情
空が繋いでくれたから
あなたはどこへ行っても
きっと迷わない
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
この命のために
草花を焼き払い
この命のために
鳥を射ぬった
この命のために
川を塞き止め
この命のために
海を減らした
なのにこの命は
てんで役に立たず
月に吠えることしかしない
この命のために
誰か一人は死んだ
この命のために
粒子は集まり
この命のために
意思をもった
それでもこの命は
生きる糧を見失うだけで
よろよろと力なく崩れていくんだ
この命は
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
そのしがない老婦人は
孫にあげるプレゼントを探し町を歩いていた
その目には子供のような無邪気さを覗かせ
湧き上がる高揚を堪えながらもしかし軽い足どりだった
それでも世界は終わる
風船のようにふわりふわりと
彼女は約束の時間を気にしていた
バーで落ち合う恋人に嫌われないように精一杯のお洒落をして
その手には初めて繋いだ恋人の手の温もりがあり
思い出せば自然と出てくる笑みを堪えながらも心は踊っていた
それでも世界は終わる
カクテルが夕日色に染まる明けにはもう
家族で出かける初めての旅行
父はガイドブックを一心に読んでいた
母は眠る我が子の手を握り窓の外を眺めている
太陽は穏やかに空を青く見せて
その空を狼は木陰から仰いだ
それでも世界は終わる
初々しくはしゃぐように
パーティーはつまらない
いつも仲間はずれだから
私はさみしんぼうのうさぎなのに
いっつも「部屋にいなさい」 って言われるの
それでも世界は終わる
私がゴロンと横になると
世界は色とりどりにくだけ散るの
ニュースの終わりのように
とても静かに
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
羽根が一枚抜け落ちただけで
一日が台無しになってしまう天使
そんな日に私が死んだら
ふて腐れたように
でも出迎えてくれるのだろう
作り笑顔よりはずっといい
死んだばかりの私にはそのくらいがいいよ
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
イデアの手を引いて
言の葉の空を自由に飛ぶ
神話の中でしか生きられない
天使や悪魔に会えるだろう
世界を写す鏡
鏡を写すのは何
イデアの声を信じて
世界を写す目を
涙も凍り
言の葉は塞き止められて
沈んでいく体を受け止める手は
ここでは生きられない
あなたのものだった
今日を写す僕と
僕を写すあなたと
あなたを写す今日があれば
どこでだって生きていける
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
猫が死んだ
魔方陣の上で
無理やり夢を持たされて
希望を思うその双眸
どこを見ているのか
どこも見えてはいないのか
猫が死んだ
今ここに魔法がかかった
猫が死んだ
ただ恍惚と輝くばかりの双眸
鼓動などない
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
今見ているものが
今まで見てきたものが
すべて偽物でした
この空の青さを
確定する物質
群青体は確かにあった
あったというのに
虚構に生きる私の前には
私のみが持ちうる青しかない
これは偽物だ
私だけが信じる青ではいけない
それは粒子のスピンと同じで
絶対にはならない
私たちが共有するものは
偽物であり
群青とは呼べない
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
とっ散らかした部屋で
生者は脆弱に
愛するための言葉を拾い食いする
おかしのパッケージを
眺める死者を
僕は馬鹿にしたくない
理解することをやめたら最後
とっ散らかした部屋は
愛せない食いカスだらけに