詩人:さみだれ | [投票][編集] |
煙たい
月
大量の光が
ホログラム
天頂
祈りに長さなどない
背にべったり
張りついた
やな感触の
君の名前のついた
胸
最上級の皮肉を
囁いていやがる
俺は今
実像となった
名高い石膏に
祈りを捧げている
お前たちは
天頂に向けて
祈りを捧げている
見えるか
天蓋に
べったり張りついた
身の毛もよだつ
鏡の姿
月と呼ばれたそれは
高らかに笑い
なじる
俺は
最高級のタバコを
吹きつけてやった
できるなら
背にべったり
張りついた
やな感触の
これを
天頂に向けて
放りたい
ちっ
まだ囁いていやがる
劣等品の僻みを
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流星の尾をつかまえて
知らない星を横切る
赤い星にはぬいぐるみが
仲良く暮らしていたよ
輪っかを作って
友達がたくさん
寄り添う星ふたつ
冬の銀河
君は魔法がかかったまま
目を開けることもなく
流星が すー、と
海に落ちても
神様の名前を
誇らしく名乗る星座
神様も知らない
頼りない光の粒
君が目を開けて
はじめて見る世界が
何よりも輝いて
映えたならいいな
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パンを持っていた
少女は蝶ネクタイを着けた男性の前で
拙く奉仕していた
外はぼたん雪で
町は白く、重たげだった
事が終わったあと
少女は冷水で口をすすいだ
ぼろ雑巾のような服に身を包み
雪の中を裸足で歩いた
寒さで麻痺した手はパンを落とし
それを拾い、雪を払って胸に抱いた
長い帰路だった
もう目の前の外灯すら
少女には霞んで見える
外を歩く人の姿はなく
民家から漏れてくる声が
別世界から響くように聞こえた
少女はなんとなくわかった
自分の命がもう終わりかけていることに
胸に抱いたパンに
涙にも声にもならない
悲痛を挟んで
少女はかじった
少しずつ、少しずつかじった
そして
彼女の世界は終わりを告げた
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無事に精神崩壊を迎えられたみなさん
みなさんはこれから小さな小さな円を
永遠と回っていただくことになります
はい、そうです
その赤い線の上を歩くのです
何周回っていただいても構いません
好きなときに止まり
好きなときに歩いてください
みなさんにはもう常識などありませんし
社会や自己からも解放されております
みなさんの障害になるようなものは
ここには一切ございません
さぁどうぞ
気の向くまま回り続けてください
永遠に
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炭酸ガス
魅惑の星
野生のオオカミ
鯨の瞳
快適な湿度
プランクトンの群れ
ことばを解
展開する宇宙
屈折する彼方の光
ミルクの渦
単調な素敵
墓場までエスコート
さみしい凪
鳥たちの行方
偶然の加減
クォーター
小雨の午後
拡散する涙
強情な唄
高すぎた城壁
緑の真ん中
静かすぎた人
見慣れた横っ面
情景のラスト
何回目かリフレイン
滞りない限度
クォーター
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朝焼けに夢を取り上げられて
お城から這い出した
温かいカフェオレと
バタートーストの香り
テレビ点けたらさ
12位のさそり座
君の星座はどうだっただろう
一番になれたのかな
がむしゃらに生きた
黄昏までが
嘘だったように
金星が輝く
もしかしたら全部夢だったのかな
目が覚めたら
僕は何をしているんだろう
豆球が切れたままの部屋
ひとりで悩んだ
サイレンが通りすぎて
音もなくなった
そうしてる間に意識は
夢と混ざって
なんだか気持ちいい
例えば
朝焼けがなくなって
カフェオレも
バタートーストもいらなくて
例えば
金星がなくなって
現実と夢に線が引かれて
例えば
君が悪い運命だとしても
僕は引っ張っていけるかな
今よりいい方へ
いい方へと
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自殺者の行き先を
教えてくれるガイドさん
見果てぬ夢を
消してくれる消防士さん
苦しみの正体を
照らしてくれる灯台守さん
いい殺人者を
裁いてくれる裁判官さん
人間の業を
美化してくれる詩人さん
価値観を
植えつけてくれる教職員さん
寝たきりのお年寄りを
慰めてくれる介護士さん
命の対価を
教えてくれるお医者さん
絶望の飼い方を
示してくれる飼育員さん
私たちは今日も
たくさんの人に助けられていますね
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ある日、それは言いました
「言葉を大事にしなさい」
ある一人の感情が
その他大勢の価値観を引っ張る世の中において
そんな話は聞くだけ無駄でした
退屈が言葉を生み出し
それに他人が価値観を孕ませ
そしてそれが悪魔の子であると知れば
優しい言葉で毒を飲ませ
死産させます
賢者たちは生まれた言葉を天秤にかけ
小さく軽いものはみんな
海へと投げ捨てられました
それは言いました
「言葉を大事にしなさい」
そう言って不適切な言葉を切り伏せ
血の海となった床を満足そうに見つめます
ある者にとってそれはとても理想的な世界でしょう
ある者にとってそれはひどく恐ろしい世界でしょう
ある者にとってそれは至極当然のことで
ある者にとってそれは異質なことでしょう
ある日、それは言いました
「言葉を大事にしなさい」
そういってまたひとつ
ことばがしにました
"言の葉"
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あなたは世界の真ん中で
指に髪を巻きながら
待っているのだろう
そのうちあなたが指に巻いていた髪は色を変え
しかしその変化に気づかないほどに
あなたは真摯に待っている
私たちが戦争や飢餓で苦しんでいても
私たちが貧困や差別で悩んでいても
あなたに起こりうる最も過酷な現実は
待っている人が現れないこと
それでいいんだよ
神様のお言葉でも
私の哲学でもなく
それでいいんだよ
君たちが私にどれほど醜いレッテルを貼ろうとも
私には何ら苦ではない
君たちは世界の真ん中で
私やあなたを指差し笑うが
そんなものは悩みにもならない
私に起こりうる最も残酷な現実は
待ち人がいなくなること
それだけだ
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"ぼすっ"
私はカウチに腰を下ろす
魂との対話の時間だから
しばらくして冷たい風とともに
魂はやってきた
"すとん"
私の対面に魂は腰を据えた
(さて、何から話せばいいものか)
私が眉に皺をつくり
考えあぐねているのを見て
魂は声を上げて笑った
「私はちゃんと待っているから、焦らず話せばいいよ」
静かな、しかしどこか強かな声だった
私は暖炉の方に目をやった
色のない炎の先端を
その向こうの煤を
私はぼうっと見ていた
「私はね」
魂が話しかける
「私はね、こうやって君と時が流れるだけで幸せなんだ
こうやって君の横顔を眺めている時間がね」
私は何も答えなかった
魂の方に目をやると
その顔は微笑んでいて
私はつられて微笑んでいた