詩人:さみだれ | [投票][編集] |
夕焼けをバックに
神木の根元
眠る人の姿が
辺り一面に散ったはずの
エンディングが
音もなく連れ添う
三毛猫が
すべて忘れられないと
嘆いているから
時間だ
もうすぐみんな
離ればなれ
そこから
いち
に の
さん
遠くまでは
響かないだろう
明日には
まだ早いのに
気持ちはまだ
遊んでるのに
もうここには
誰も いない
いたくて仕方ない
そう思っているのに
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左利きってね
疎まれるんだよ
右利きの人はね
何にも言われないよ
世界は民主主義でね
少ない人は損をするんだよ
七割が青だと言えば
黄色や赤は変だと言われるんだよ
おかしいよね
残り少ない人には何にもいいことなんかなくて
考え方、生き方すら悪く言われて
悪く言われなくても受け入れてくれなくて
左利きってね
矯正させられちゃうんだって
やっていることは同じなのにね
頭んなかロボトミー手術じゃないけど
似たようなものだよ
病気じゃないのに病気だと言われたり
こっちのが多いからと言ってそっちのを省いたり
あーあ
ほんと嫌になるね
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サンセット通りには泳ぎ疲れた人魚たちが亡霊のようにさ迷っている
かと思えば生まれたばかりの珊瑚の子供が母との別れを惜しんでいる
サンセット通りを北に行くと小さな喫茶店がある
癖毛のマスターが淹れる紅茶には肩をほぐされると
彼女はよく言っていた
その向かいにあるホテルに若いロブスターが恋人らしき女性と入っていく
そこに愛はあるのだろうかとマスターに訊ねると
マスターは怪しく犬歯を光らせ(営業用のスマイルか)コップを磨く作業に戻った
そうだ
サンセット通りには決まって午後五時になるとチャイムが鳴る
何十年か昔の童謡らしい
彼女はそのチャイムが鳴る間だけ内緒話をした
ほとんど聞き取れないままチャイムが止み、その後彼女は"帰ろう"と言う
それが日常だった
サンセット通りには遊び疲れた人魚たちが亡霊のようにさ迷っている
そこに彼女の姿はなく──
いつまでも来ない夜を思って
僕はその場を去った
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さて、
あなたは如何にしてそこから這い上がるのでしょうか?
無駄な足掻きに波は容赦なくその身を打つ
今やっと気づいたことといえば
明日着ていく服洗ってないなぁ
で、あなたは如何にしてそこから這い上がるのでしょうか?
許されるはずがありません
許してはならないのです
避雷針に落ちた雷をおもしろいと笑った
いいえ笑われていたのです
あなただけでした
耳が不自由だったのは
そうです
あなた以外のものも許されてはならない
しかしあなたがそれを言えば
"自分を棚にあげて"
だからこそあなたは冷えゆく心臓に
手足の麻痺
生きたいがために行ってきた呼吸も
滑稽なことにあなたの肺を凍らせます
それは苦しみ
さて、
あなたは如何にしてそこから這い上がるのでしょうか?
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理解してくれない
だから理解して
私、死ぬかもしれない
はやく希望を与えて
生きる糧を頂戴
私のこと考えてよ!
ねぇいつになれば気付くの?
私、お腹が空いてるの
もうずっと
幸せなんかない
生まれてこなきゃよかった
優しくしてよ!
愛してよ!
理解してよ!
"本当にそうなの?
それでも死なないの?
まだ生きてたの?
早く死ねば?"
『偽装自殺』
満月の夜
世界は血に満ちる
落日の丘で祈りを捧げた少女は
翌日、変わり果てた姿で発見された
両親はかけがえのないものを亡くしたと泣いた
次の日もその次の日も
そして泣き腫らした目で天を仰ぎ
祈りを捧げた
長い長い祈りを二人は捧げた
満月の夜
ぼくはしぬことにしました
このせかいにきぼうをみいだすことができませんでした
ぼくはもうたえられません
みなさんありがとうございました
偽装自殺
ねぇ気付いてよ
"何に?"
私が苦しんでること
"どうして?"
幸せがわからないの!
"いつから?"
わからない
"どうして?"
それくらい辛かったから
"なぜ言わなかったの?"
言いたくなかったから
"聞いてもよかったの?"
聞いてほしかったの!
"そのために君は何をした?"
手首を切った
"それ以外に君は何ができた?"
じゃあ私はどうすればいいの
こうすることでしか
理解してもらえないはずなのに
『偽装自殺』
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理想的な世界でなくていい
ただそれぞれがそれぞれを尊重してほしい
誰かの望む世界はいらない
みなが違っているから楽しいんだ
長い年月をかけた魂をこめて
"あなたは間違っている"
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月に行きたい
宇宙人になって
ひとりで月にいたい
誰の言葉も聞かなくてすむ
月に行きたい
見たくないものも見なくてすむ
月にいたい
もし満月に橋が架かったら
急いで渡らなくちゃ
色を変えてしまう前に
渡りきらなくちゃ
何も感じなくていい
誰を思うでもない
月に行きたい
ただ平凡に暮らせるように
争い事がないように
月にいたい
三日月に桟橋があるのなら
船を作ろう
ひとり分の質素な船
そいつで月に渡ろう
はやく渡ってしまおう
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人は目も合わせず
彼女と語らったよ
その目には魔法がかかっていると
誰もが疑ってしまうから
彼女の晩餐
ひどく焦げ付いて
それを食べなければ明日は生きられない
そうひとりでに決めていたんだろ
だから神様は非情だと
あなたは歌うんだ!
無意識に蝕んでいたその毒が
世界を濁らせていると
静かに眠ってくれ
穏やかな気持ちを遮るものはみんな
家の中に逃げ帰ったよ
彼女の窓
訪れるミカエルの羽を大切に
箱の中に仕舞い込む
太陽が真新しいと涙を浮かべて
頬を拭う手は乾ききって
だから人は出来損ないだと
あなたは歌うんだ!
差し伸ばされた手を握り返すことを忘れて
もう二度と恋なんてしないと
けれどあなたはそれを欲しがっている!
何よりも代えがたいものをあなたは求めている!
今はまだ深い海の底で
息の仕方を思い出せずにいるけれど
あなたは知っているんだ!
あなたが目にしてきた様々なものに答えはあると
あなたは知っているんだ
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泳げないくせに
海へ行きたいと言う
あなたは胸をときめかせ
"水平線が見たいんだ!"
それを見てしまえば
知ってしまえば
この世界に果てがあるように思うでしょう?
だから今はまだ
この空の広さに気持ちを預けて
そう、今はまだ
この地上の果てを探して
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月が地球から去って何万年後か
残り少ない子供たちの中に彼女はいた
赤ん坊の頃に見た夢を彼女は覚えているという
それは古い昔に人類が失った物語のようだった
太陽が昇ると眩しくて目を閉じちゃうのは誰?
雲は楽しそうに泳いでいるのに
花や草じゃないの
もっとおっきなもの!
あれって何て言うのかな
彼女は感じていた
この空のどこかにぽっかりと穴が開いていると
そこには星も雲も鳥も
太陽すら入らない
残り少ない大人たちは笑った
そんなものはないよ、と
優しく
けれど冷たく諭した
まだ月が地球にいた頃
あるひとりの少年が願い事をした
神様には届かなかったかもしれない
けれど月は聞き入れた
にっこりと笑って