詩人:さみだれ | [投票][編集] |
宙に浮かぶ野原を
絶海の中に見る
反射する春の花々を
片目を閉じて見る
心はもう深海へと沈み
気持ちの彼方にプリズムが射し込む
私はどんな言い訳で生きているのだろう
まばらに聞こえる声を
いちいち気にしている
それだけで心地よく思える
この身を太陽だけは
燦々と焦がしてくれる
そして喜びは輝き失せた
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燃えて光る
メランコリアの残火を
大事に葬る彼を
その国は持っていた
クオリアをなくした
人の脱け殻を見
美しく遠吠えする
そんな彼を
世界を見てよ
地球じゃなくて
あなたが感じ思う
世界を見てよ
煌めく朝露の結晶を
私の手では触れられない
その悲しみを
伝え聞いてくれよ
あなたがいたという事実は
やがて痕跡になり
風化してまた形を失う
艶やかにそびえ立つビル群
それよりはまだ長く
うつくしく
喉を震わせ
あなたは生きて
この世界を見るの
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希望とか
幻想なんてものが
あり続けるせいで
世界は張り詰めた糸を
切れずに悶える
だから私の心を切れずにいるのだろう
あなたは誰
何がしたくてそこにいるの
殺してください
と、呟いた
希望とか
幻想なんてものが
この部屋に敷き詰められているから
何も聞こえずに
私は忘れてしまうのだろう
人間を人間たらしめる優しさ
人間を人間たらしめる残酷さ
私の部屋に充満したガス
私の脳を犯す劇薬
殺してください
と、呟いた
けど
ここには私しかいないのだ
蓋をされ
釘を打たれ
呼吸を忘れていく僕を
希望とか
幻想なんてものが
救いだしてはくれまい
それが世界ってものだと
あなたは言うの
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手が自分のものじゃなくて
不気味だ
見ているものが誰かの差し金のような気がして
どうでもよくなる
生きていなくても生きる方法がある
そう思うのが死ぬこと?
神様を殺そう
そう言ってた人
誰だったろうか
何度も死んだんだその人
誰だったろうか
頭の中氷が入ってるみたい
とても気持ちのいい
そんな地獄
わかってるよね
空が青くなくなる
クオリアを持っていかないで
私はにんぎょのもりを歩いておりました
神様を殺そう
草木が嬉しそうに話しかける
庭のプランター
どこにいきたいかわからなくて
ふたりは海を漂う
宇宙人はニンジンを食べられず
怒鳴られて怒鳴られて
誰に?
生かされている
神様を殺そう
夕暮れに現れる
あの黒いの
誰だったろう
毎日浮いて
落ちていた人
誰だったろう
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神様はいた
不安定な乳母車の中に
ペットボトルで作られたガラガラを持って
神様は満足そうに笑っておられる
君はホームセンターで
よく切れるものを探して
貧乏ゆすりをしていた
30分後
この世界から神様はいなくなった
そしてそんな世界を
僕はなんとなく楽しみにしていたのかもしれない
ねえ
何を望んでいたの
望んでもいなかった世界で
ねえ
何が叶えられたの
敵いっこない世界で
神様はいない
土手の川岸で
ペットボトルが浮いたり沈んだりしているのを
君は
一時間ほど眺めていた
レジ袋を片手にじっと
僕は知らないふりをしていたんだ
こんな世界を見て見ぬふりをして
望んでいるよ
君の幸せを
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誰かがコーヒーを落とした
それがすべての始まり
新聞に書かれた世論は
魂をもって動き出す
紳士のハットが宙に舞えば
太陽は思い出したかのように燃え始める
バーで気の沈んだ恋人は
恋人によって連れ出された
二人のために月は輝き
熱くなりすぎた気持ちを冷ましてくれる
猫がバランスを崩し転んだなら
愛は人々の心に知れ渡るだろう
それが愛だと少女は言った
わずか十歳未満の少女により
草花は歌を思いだし
鳥たちにすべての歌を与えたのだ
郵便配達人が望んだ幸せは
とても小さな一つのことで
誰もが笑い転げる中
星はそれを素敵だと言う
時計塔で待つ彼女に贈った
精一杯の光はそう誰のものでもなく
世界の始まりは些細なこと
あなたが望もうと望まなくとも
世界の始まりは始まるのだ
あなたが選ぼうと選ばなくとも
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世界の終わりがきた
何も知らされていない男は
記念すべき雑貨屋のオープンを迎えた
しがない老婦人が外から中をうかがっただけ
飾った風船もしぼんでいった
そう 世界は終わったのだ
ニュースを見ていた彼女は慌ててバーに駆け付けた
恋人は笑うばかりで指輪をストローで弄んでいた
彼女は決めた
もっと華やかな町に行こう
そして焦がして煤となった心を
もう一度固めよう、と
そう 世界は終わったのだ
湖で泳ぐ父子は初々しい
母はオレンジを剥きながら二人を見守る
狼でさえ見ているしかできない幸せ
もうすぐ夕立が降り雨の匂いに胸を踊らせる
そう 世界は終わったのだ
時計塔から針は姿を消し
代わりに人々は恐怖するのだろう
たったひとりそれを喜んだ
郵便配達人は最後の手紙を女の子に届けた
しわくちゃの手紙を読んだ彼女は
海へ走り、祈りを捧げた
そう 世界は終わったのだ
パーティーの準備を始めよう
あの子をうさぎ小屋から出しておやり
みんなで楽しく踊りましょうよ
おいしいケーキも作ったんだから
ニュースなんて見てないで
素敵な歌を聞かせてよ
そう 世界は終わったのだ
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猫は鳴いている
カセットの中
観測されている
再生ボタンを押したまま
いつまでも
猫は鳴いている
優しい檻
観測されている
誰も聞かなかった
言葉の意味を
今夜問う?
量子の海を漂う
排他的な僕らの思想は
毒にやられて
死んだの
猫は鳴いている
カセットの中
観測している
再生ボタンが戻らないうちは
いつまでも
小さな檻
いつまでも
量子の海
いつまでも
いつまででも
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君を見ている青い星と
目尻に涙を溜めた彼と
小さな霧のような雲が
私の背中の向こうに
羊飼いは藁の上で
時計屋は塔のてっぺんで
おばあちゃんは毛布に包まれて
あなたは短い夢を見る
「夜が来るから」と
母は絵本をパタンと閉じて
私が夢を見るまで
月と一緒に見守っていた
あなたが闇に埋もれて
星ほどの涙を流すとき
私はそばであなたを見つめ
あなたが幸せな夢を
短くても私は守りたい
明日正夢になったなら
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あなたが眠れる詩を
私はもう 書けない
あなたに励まされた詩を
私はもう 思い出せない
誰かの幸せな詩も
苦痛に満ちた詩も
真っ青な大気の向こうへ
落葉樹は揺れる
とてもさみしそうなそれを
私はこんなちっぽけなものに押し込め
胸を張り差し出す
あなたが眠れる詩を
誰かが、誰かが、と
待ち続けるだけの毎日を
ふと思い出した今夜
コンビニの光がちかちかして
星すら見えない今夜
私の詩を読んでください
あなたの心を書いてください
もうみんな眠る頃に
あなたが眠れる詩を