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さみだれの部屋


[631] パン
詩人:さみだれ [投票][得票][編集]

パンを持っていた
少女は蝶ネクタイを着けた男性の前で
拙く奉仕していた
外はぼたん雪で
町は白く、重たげだった

事が終わったあと
少女は冷水で口をすすいだ
ぼろ雑巾のような服に身を包み
雪の中を裸足で歩いた
寒さで麻痺した手はパンを落とし
それを拾い、雪を払って胸に抱いた

長い帰路だった
もう目の前の外灯すら
少女には霞んで見える
外を歩く人の姿はなく
民家から漏れてくる声が
別世界から響くように聞こえた

少女はなんとなくわかった
自分の命がもう終わりかけていることに
胸に抱いたパンに
涙にも声にもならない
悲痛を挟んで
少女はかじった
少しずつ、少しずつかじった



そして
彼女の世界は終わりを告げた

2012/12/23 (Sun)

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