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さみだれの部屋


[678] 世界の限り
詩人:さみだれ [投票][得票][編集]

月の天使は言いました
”新しい朝は来ないものか”
空が白く染まり
色を取り戻す過程に
月の天使は飽きてしまいました
彼方より来る混沌か
此方より湧く災厄か
人々の目には
ただ美しいだけの景色でした

彼は暗闇の中にいました
自己を確立するためだと言います
玉虫色のよれよれな羽
赤く染まる足
旅の過酷さを人々に話して聞かせては
幽霊のように消えてしまいます
そは虹を眺め
そは虹を見過ごす
人々の手には
掬いきれないものなのです

あなたの時間は
私と同じです
そこには厚さなどなく
密度などもなく
あなたの時間に
平行しています
あなたの言い知れぬ痛みを
私は当然知り得ないし
私の塞ぎきった心とやらを
あなたは恐らく知り得ない
そして
人々の口には
ただ我を訴えるしかできないのです

星の群れにありました
あの大きな輝きは
もっとも近い空にあると
月の天使は言いました
ノルンを欺け
底知れぬ闇こそ
我々の運命である
人々の目には
ただ美しいだけの景色でした

少女は"暖かい"と言って笑いました
紫外線の中を
踊りながら
それが世界のすべてだと
私は信じたいのでしょう
あらゆる神に祈ったところで
朝は変わらず白く染まり
色を取り戻す過程をやめないのですから
人々の命では
なんてことないことも
月の天使には
とてもさみしいことなのです
私には
あなたには
当然知り得ない心です

2013/04/07 (Sun)

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