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中村真生子の部屋  〜 投稿順表示 〜


[271] 祈りの山(田和山遺跡)
詩人:中村真生子 [投票][編集]


中国山地の山々を仰ぎ

宍道湖や平野を見下ろす山の頂に

「田の字」と「一の字」の柱の跡あり。

「田の字」には9本

「一の字」には5本の穴。

東側に並ぶ

「一の字」の5本の柱穴に

北から南へ、南から北へと歩む

日の出の往来を思い出す。

両端は夏至と冬至

真ん中は春分と秋分

その間は

立夏と立秋、立春と立冬か。

弥生の人々は

ここで祈りを捧げたのか。

山々に神や祖先を感じ

水田を眺めながら

太陽に日々の暮らしを託して…。

三つの環濠を越えて

頂に登れば

周りには今も変わらず

人々の崇めた山があり

平野には人々の暮らしがあり

空からは陽の光が降り注ぐ…。



2012/11/02 (Fri)

[272] 神の記憶(西谷墳墓群)
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斐伊川にほど近い

西谷の丘陵地帯で見つかった

四隅突出型墳丘墓。

国内最大の5つのうち

4つまでもがここに存在する。

造られたのは

弥生時代の終わりの3世紀。

広げた手足のように

四方に伸びた突出部は

上で葬送儀礼をするための

アプローチではないとされている。

そして上部には4本の柱と

中央に心臓のような赤い玉。

壺や高坏などたくさんの土器を並べ

彼らはここで

どんな儀礼をおこなったのか。

古人は死者の魂は神となり

山に宿ると信じていたという。

平野と山の間の

古人の神への想いが眠る丘。

覚めやらぬ夢のように

今もその記憶が息づいている。


西谷墳墓群/島根県出雲市大津町

2012/11/03 (Sat)

[273] 照葉の祠(佐世神社)
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神社の境内を右に下ると

再び平らな土地に出る。

ご神木の

スダジイなどの巨木が

手をつなぎ守るように

ここの場所を取り囲む。

仰ぎ見れば

天上も緑の葉に彩られ

地には

木漏れ陽が静かに揺れる。

そして

ここに佇むものを

優しく包み込む。

緑と光の祠となって…。


世佐神社(島根県雲南市大東町下佐世1202)

2012/11/04 (Sun)

[274] 宿りの磐(須我神社奥宮)
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巨石に出くわしたとき

古人は神が作ったものと

考えたのであろう。

あるいは

そこに神の姿を見たのか。

八雲山の登山路を歩き

長い石段を登ると

忽然と現れる3つの巨石。

苔蒸して森の色となり

木漏れ日と

注連縄とをまとって

神々しく鎮座する。

磐の前で手を打って

ここに居ることを知らせ

手を合わせて

大なるものに想いを馳せる。

畏敬と安らぎとを

胸の奥に覚えながら…。



須我神社奥院 須我神社(島根県雲南市大東町須賀260)より北東へ2q

2012/11/05 (Mon)

[275] 終(つい)の形(加茂岩倉遺跡)
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慌てて隠されたのか

放棄されたのか

山中に

無造作に埋められていた

加茂岩倉の39個の銅鐸。

再現された土中の様子に

想起されるのは一つの終焉。

森の緑と

木漏れ日の輝きのごとき

青銅器を放ち

土の色をした鉄器を手に

大地を耕す生活の始まり。

かくして人は森を出て

今へと続く暮らしを始めた。

鎮守の森に

在りし日の想いを重ねながら…。

終わりなきもの初めなし。

季節は巡り、人も巡る。

いつの時代も

大きなものに導かれながら…。


加茂岩倉遺跡:島根県雲南市加茂町岩倉

2012/11/06 (Tue)

[276] 深まりゆく秋
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白い夕べに

赤い和ろうそく1本。

真っ直ぐ伸びる炎と

その周りの

みかん色のきらめき。

手をかざすと

ほんのり温かく…。

その呼吸のごとき

きらめきとともに

闇は深まりゆく…。

窓の外

薄暮の中にふうせんかずら。

白い花と緑のふうせん

もうすっかり

茶色になったふうせん。

震えるように

秋風に揺れ…。

その鼓動のごとく

揺れとともに

秋は深まりゆく…。



2012/11/07 (Wed)

[277] 冬支度
詩人:中村真生子 [投票][編集]


ヤマブドウに占領され

洞窟のようになった

木の下で

雀が一羽

出たり入ったり…。

居心地を確かめるように…。

雪に備えて

お宿を探しに

来たのだろうか。

そういえば昨日は立冬。

玄関にコートが下がり

暖房器具も鎮座して

だれもかれもが冬支度。



2012/11/08 (Thu)

[278] 秋の瞬間(とき)
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吹き抜けていく風に

植え込みの

色づいた桜の葉が

サラサラ流れる。

午後の光をまとい

黄金色の川面となって…。

その照り返しが

さっきまでの

ためらいを

喜びに変えていく。

秋の瞬間(とき)が流れゆく。

佇むものの

想いを照らし…。



2012/11/09 (Fri)

[279] ハロウィン
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10月最後の日の夕方。

玄関のチャイムが鳴り

インターホンを通して返事をすれど

返事がない。

誰かなと扉を開けると

6人ほどの近所の子ども。

「お菓子をくれないと、いたずらするぞ」と

例のセリフ。

ああ、そういえば今日はハロウィン。

すでに何軒か回ったらしく

たくさんのお菓子を持っていた。

あらあらと思い

ちょうどあった

小袋入りのお菓子を6つ渡すと

みんなで分けて

おとなしく退散してくれた。

去年までは訪ねてこなかった

小さな魔女やお化けたち。

田舎町の町はずれにある

小さな我が家さえも

遠い国からやってきた魔女たちに

ついに見つけられてしまった。



2012/11/10 (Sat)

[280] 残照の森
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桝水高原を左に折れ

トンネルを抜ける。

一の沢、二の沢、三の沢…

沢を抜けるごとに

深まりゆくブナの林。

白とグレイの幹に

黄金色の葉…。

山頂の冬と麓の間に

昼と夜の間のような

黄金色の残照。

美しいという言葉と

懐かしいという言葉が

二重螺旋となって

湧き上がる。

遠い昔

こんな森で

こんなふうに森を見ていた。

そんな想いに翻訳されて…。


2012/11/12 (Mon)
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