詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
中国山地の山々を仰ぎ
宍道湖や平野を見下ろす山の頂に
「田の字」と「一の字」の柱の跡あり。
「田の字」には9本
「一の字」には5本の穴。
東側に並ぶ
「一の字」の5本の柱穴に
北から南へ、南から北へと歩む
日の出の往来を思い出す。
両端は夏至と冬至
真ん中は春分と秋分
その間は
立夏と立秋、立春と立冬か。
弥生の人々は
ここで祈りを捧げたのか。
山々に神や祖先を感じ
水田を眺めながら
太陽に日々の暮らしを託して…。
三つの環濠を越えて
頂に登れば
周りには今も変わらず
人々の崇めた山があり
平野には人々の暮らしがあり
空からは陽の光が降り注ぐ…。
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斐伊川にほど近い
西谷の丘陵地帯で見つかった
四隅突出型墳丘墓。
国内最大の5つのうち
4つまでもがここに存在する。
造られたのは
弥生時代の終わりの3世紀。
広げた手足のように
四方に伸びた突出部は
上で葬送儀礼をするための
アプローチではないとされている。
そして上部には4本の柱と
中央に心臓のような赤い玉。
壺や高坏などたくさんの土器を並べ
彼らはここで
どんな儀礼をおこなったのか。
古人は死者の魂は神となり
山に宿ると信じていたという。
平野と山の間の
古人の神への想いが眠る丘。
覚めやらぬ夢のように
今もその記憶が息づいている。
西谷墳墓群/島根県出雲市大津町
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神社の境内を右に下ると
再び平らな土地に出る。
ご神木の
スダジイなどの巨木が
手をつなぎ守るように
ここの場所を取り囲む。
仰ぎ見れば
天上も緑の葉に彩られ
地には
木漏れ陽が静かに揺れる。
そして
ここに佇むものを
優しく包み込む。
緑と光の祠となって…。
世佐神社(島根県雲南市大東町下佐世1202)
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巨石に出くわしたとき
古人は神が作ったものと
考えたのであろう。
あるいは
そこに神の姿を見たのか。
八雲山の登山路を歩き
長い石段を登ると
忽然と現れる3つの巨石。
苔蒸して森の色となり
木漏れ日と
注連縄とをまとって
神々しく鎮座する。
磐の前で手を打って
ここに居ることを知らせ
手を合わせて
大なるものに想いを馳せる。
畏敬と安らぎとを
胸の奥に覚えながら…。
須我神社奥院 須我神社(島根県雲南市大東町須賀260)より北東へ2q
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慌てて隠されたのか
放棄されたのか
山中に
無造作に埋められていた
加茂岩倉の39個の銅鐸。
再現された土中の様子に
想起されるのは一つの終焉。
森の緑と
木漏れ日の輝きのごとき
青銅器を放ち
土の色をした鉄器を手に
大地を耕す生活の始まり。
かくして人は森を出て
今へと続く暮らしを始めた。
鎮守の森に
在りし日の想いを重ねながら…。
終わりなきもの初めなし。
季節は巡り、人も巡る。
いつの時代も
大きなものに導かれながら…。
加茂岩倉遺跡:島根県雲南市加茂町岩倉
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白い夕べに
赤い和ろうそく1本。
真っ直ぐ伸びる炎と
その周りの
みかん色のきらめき。
手をかざすと
ほんのり温かく…。
その呼吸のごとき
きらめきとともに
闇は深まりゆく…。
窓の外
薄暮の中にふうせんかずら。
白い花と緑のふうせん
もうすっかり
茶色になったふうせん。
震えるように
秋風に揺れ…。
その鼓動のごとく
揺れとともに
秋は深まりゆく…。
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ヤマブドウに占領され
洞窟のようになった
木の下で
雀が一羽
出たり入ったり…。
居心地を確かめるように…。
雪に備えて
お宿を探しに
来たのだろうか。
そういえば昨日は立冬。
玄関にコートが下がり
暖房器具も鎮座して
だれもかれもが冬支度。
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吹き抜けていく風に
植え込みの
色づいた桜の葉が
サラサラ流れる。
午後の光をまとい
黄金色の川面となって…。
その照り返しが
さっきまでの
ためらいを
喜びに変えていく。
秋の瞬間(とき)が流れゆく。
佇むものの
想いを照らし…。
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10月最後の日の夕方。
玄関のチャイムが鳴り
インターホンを通して返事をすれど
返事がない。
誰かなと扉を開けると
6人ほどの近所の子ども。
「お菓子をくれないと、いたずらするぞ」と
例のセリフ。
ああ、そういえば今日はハロウィン。
すでに何軒か回ったらしく
たくさんのお菓子を持っていた。
あらあらと思い
ちょうどあった
小袋入りのお菓子を6つ渡すと
みんなで分けて
おとなしく退散してくれた。
去年までは訪ねてこなかった
小さな魔女やお化けたち。
田舎町の町はずれにある
小さな我が家さえも
遠い国からやってきた魔女たちに
ついに見つけられてしまった。
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桝水高原を左に折れ
トンネルを抜ける。
一の沢、二の沢、三の沢…
沢を抜けるごとに
深まりゆくブナの林。
白とグレイの幹に
黄金色の葉…。
山頂の冬と麓の間に
昼と夜の間のような
黄金色の残照。
美しいという言葉と
懐かしいという言葉が
二重螺旋となって
湧き上がる。
遠い昔
こんな森で
こんなふうに森を見ていた。
そんな想いに翻訳されて…。