詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
床に木々の影が揺れている。
ざわざわと…。
その中で思いを馳せる。
何千もの昔
「時」が発見されたころを。
最初はこのような
ざわめきだったのかもしれないと。
その意味を確かめたくて
人は大地に棒を立てたのかもしれないと。
そして日時計が生まれ、
やがて機械の時計が生まれた。
過去も未来も
人々の生活も
整然と照らしてくれるようになった「時」は
光ではなく影から始まったのだ。
床に木の影に混じって
自分の影が映っている。
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ピアノやヴァイオリンなどの音を聴きながら
音符はいつも思っていた。
自分も音のように
軽やかに空(くう)を舞いたいと。
そこで音符は神様にお願いした。
「私は生まれてこの方
紙にはり付けられたまま
どこへも行くことができません。
どうぞ私も音のように
空を舞えるようにしてください」と。
音符の切なる願いに
神様はそれもよかろうと
音符に灰色の羽をつけてやった。
すると音符は
ゆらゆらと楽譜から飛び立った。
それが全音符だったので
白い体に灰色の羽の鳥になり
その鳥を
人々はカモメと呼んだ。
だからカモメは
ゆらゆらと舞うように空を飛ぶ。
まるで昔暮らした五線譜を懐かしむように…。
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厚い雲が去り
姿を見せた山は
裾野まで雪化粧。
そして
薄陽の中に
天から裾野まで伸びる
ベールのような薄い雲…。
けれど
あれは雲ではなく
降りしきる雪なのだろう。
天から地へと降りしきる…。
衣を白く染める冬の使者に
木々たちは宴の終わりを知り
やがて
着飾った衣を脱いでいく…。
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大山に20センチも
雪を降らせた雲は去り
小春日和の良い天気。
海も空も青く
砕け散る波は
夏の海のように白くまぶしく…。
迫り来ていた冬が
少し遠ざかる。
ほっと息をついて
しばし還ってきた秋を楽しむ。
洗われた空気の中で
一段と美しく光輝く秋を…。
頭の片隅に
昨日垣間見た冬を残しながら…。
こうしてだましだまし
天は冬を連れてくる。
こうしてだまされだまされ
人は冬を受け入れていく。
受容と諦念のその淵で…。
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絶え間なく
けれど
一粒一粒
海に地に降り注ぐ雨。
一粒一粒…。
雲から離れて
地上へ届くまでの
わずかな時間。
その間に雨粒も
泣いたり
笑ったり
悩んだり
するのだろう。
その小さな一粒一粒が…。
その小さな一粒一粒ゆえ…。
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今年初めてミカンを買う。
思ったより甘てくおいしい。
するとミカンはつぶやいた。
「わたしらはずっと
酸っぱい思いをしてきたからね」と。
たくさんの柿をもらう。
なかなか甘くておいしい。
すると柿はつぶやいた。
「わたしらはたっぷり
渋い思いをしてきたからね」と。
甘いミカンと
甘い柿をいただく。
「おいしいね」とつぶやきながら…。
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幼なじみとの
久しぶりの語らい…。
互いにあった
いろいろなことを
伝えあいたくても
互いに忘れてしまって
いることも多くなり…。
そんなとき
ますます大切に
しなければと思うことは
今、この時間。
セピア色の写真のような
過ぎ去った時間でもなく
透明な絵具の絵のような
これから先の時間でもなく
今、この時間。
七色の光あふれる
今、この時間。
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輪になって花が咲き
それがタワーのように
連なって茎を飾っていた
ダン菊の、
いつの間にか結ばれていた
種がこぼれ落ちる。
冬支度を始めた大地に
パラパラと…。
種は撒かれる。
繰り返し繰り返し…。
しかして
咲かせるのはあなたの心。
味わい深き豊かな土壌…。
冬の大地こそ、その始まり。
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やっと
気づいたんだね。
昨日訪れたあの場所は
入り口が違うだけで
同じ場所だということに。
きみがよく知っている
あの場所と。
きみはもう居る
居るべき場所に。
そしてそこで
見るのだろう。
同じものが放つ
異なる光を…。