詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
花弁を重ねるように
苦労を重ね
大輪の花となる。
その傍らに佇めば
やさしさだけが匂い立つ。
花弁を開くように
夢を開き
大輪の花となる。
その姿を眺めれば
静けさだけが凛と漂う。
美しき花は
人にも咲き・・・。
人の花は
時を経るほどに味わい深く…。
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蕗の薹の天ぷらと
蕗の薹味噌をいただく。
ほどよい苦味が
体の中に広がっていく。
意識的かつ最後に
受け入れたこの味に
体は今でもなじみが薄く
早く追い出そうと働きかける。
そんな気持ちを察した苦味は
ならば誰かを道連れにと
老廃物の手をつかむ。
つかまれて老廃物は
苦味と一緒に体の外へ。
「春の食卓には苦みを添えよ」。
ただしほどよい苦味を。
青春の日々の
ほろ苦い思い出のような…。
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用事を済ませ部屋に戻ると
よい香りがした。
甘く爽やかな柑橘系の香り。
さっき食べた伊予柑の香りだ。
衣がやぶれた際
解き放たれた精油たちが
部屋の中に広がって
香りを立ち昇らせているのだろう。
ゆらゆらと
かげろうのように…。
冬の淡い光を重ねて描かれた
衣の優しい橙色にも似た
繊細な香りを
すーっと体の奥まで吸い込む。
また少し春に近づく。
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幾重にも幾重にも檜皮を重ね
出雲大社の御本殿の
180坪もある大屋根が葺かれる。
その数約32万枚
両側では約64万枚。
重ねられた檜皮の
軒先の厚さは約1mにもなる。
屋根下地には
木材が縦横に何層にも重ねられ
さらに檜皮で覆われるその姿は
まるで樹木を再現するかのごとく。
神様のお住まいにふさわしい
最高に美しく
この上なく荘厳な樹木を…。
ゆえに重ねられた檜皮の隙間に
巣を作る鳥がいるのもうなずける。
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雪解け水で
濡れている道を車で走る。
跳ね返った水が
雨のように
フロントガラスを濡らす。
前の車も
勢い水しぶきを上げながら走る。
その水しぶきが
ゆらりと光る。
見ると
日の光が当たってできた虹だった。
きっと私たちの車の後ろにも
虹の水しぶき。
車を汚す雪解け水の
ちょっと粋なプレゼント。
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東京に住んでいた時
仕事で島根に行った。
ホテルの近くの八百屋に
熟したプラムが売ってあった。
部屋に持って帰って食べると
とめどもなく涙があふれてきた。
おいしかった。
失ったもののすべてが
ここにあるように思えた。
折しもラジオから「アメージング・グレース」が流れ
それがさらに涙を誘った。
しばらくして
ホテルから電話をかけると父が出た。
少し寂しそうに思えた。
実家までは電車で1時間足らず。
帰ろうと思えば帰れたに違いない。
そんな思いも脳裏をかすめた。
けれどそれをしなかった。
仕事で訪ねた地で
古代ハスの花が咲き誇っていたので
初夏だったに違いない。
秋の終わりに、父は逝った。
紅葉のきれいな年だった。
もう20年も前のこと。
今日、再び仕事でその地を訪ね
そんなことを思い出す。
大切にしていたプラムの種は
どこかへ行ってしまったけれど
思い出だけは今も
ころんと胸から転がり落ちる。
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積もった雪に
光の精が舞い降りる。
虹色の透き通った衣着て。
光の精の訪れに
雪は嬉しくて涙をポロリ。
なぜって
たいそう心地よく。
雪は涙をポロリ、ポロリ…。
ポロリ、ポロリ…。
心を緩めて
自分自身を解いていく。
しかれば
春は喜びにあふれ…。
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雪の夕べ
海辺の家に灯がともる。
そこだけ
ふわりとオレンジ色に。
雪の夕べ
海辺の家に灯がともる。
いつも同じ灯だけれど
なんだか今日は懐かしく。
雪の夕べ
もうすっかり辺りは暗く。
そこだけ
ぽつりとオレンジ色に。
雪の夕べ
海辺の家に灯がともる。
忘れじの思い出のように。
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雪の日のつれずれに
雪について調べてみる。
玉雪、粉雪、灰雪、綿雪、餅雪、べた雪、水雪…。
今日の雪は粉雪か。
新雪、締り雪、ざらめ雪、霜ざらめ雪、氷板…。
積もり方もさまざまで
今日の雪は真白い新雪。
雪の字は「雨」+「彗」で
箒で掃くことができる雨が由来とか。
雪の日のつれづれに
雪について調べながら
思い出すのはアラブの羊。
成長の段階によって
細かく呼び名があるのだという。
この国に降る雪のように…。