詩人:梅宮 蛍 | [投票][編集] |
鉄の匂いがする夢の中で
私は途方に暮れています
黒一色の場所に立ち
右も左も分からずに
前も後ろも分からずに
辛うじて
足の裏の硬い地によって
上下がわかるだけなのです
虫の羽音がこだまして
ここは狭くない場所なのだと知ります
なまあたたかい臭気によって
異様な光景が脳裏に浮かびますが
何も見えないので
何も分かりません
鉄の匂いがする夢の中で
そういった次第で
私は途方に暮れているのです
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虫の音と風が部屋に滑り入る
ベッドに横になったまま見上げた窓の向こう
下弦の月が逆しまに居る
今日も何もなかった
明日もきっと何もない
満ちず欠けず 歳だけが過ぎる
そんな日々もそう悪くはない
風は幾分涼しくなった
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やぁ、と言えば
応、と応え
そこに何のあるべきか
然りとて君は夢の飛礫
明日は帰らじ郷の粒
GO!と吼えれば
さぁ?と躱し
そこに雫の見るべきか
去れどもあなた
そこはダメだよ
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薄紅の恥じらい
青き日々は真白の陰の中にある
窓の外 見る君の頬杖
眦に光る過ぎし刻の忘れ形見
人は還らじ
ただ征くだけ
空から鳩が舞い降りて
また飛び立つ
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何をそんなに苛立つことがあるのか 空が地を打ち据える
ときに激しく ときに弱く
私は部屋で独り じっと息を殺している
鞭の音 張り手の音 愛の音 哀しみの音
どんな音色とも思えるそれを
息を殺して聞いている
何がそんなに憎いのか 空が地を睨みつける
ジリ ジリ と 灼くほどに
私は部屋で独り じっとそれを見ている
白くて 全てが灰になりそうだよ
窓のこちら 快適で安全な箱の中から
ただ聞いている ただ見ている
ああ
ああ、そうか
あれ等が憎いのは地ではないのか
『私』達なのか
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ハリボテの空に溜め息をぶつける
水色を塗ったくった棺の中
振り返れば短いものだったねと鶯が鳴くから
お前に何が分かると噛みついた
もう陽は沈まないし
昇ることもないだろう
名も知らぬ花の匂いが多少疎ましいが
一度眠ってしまえばまぁここも悪かない
思えば短い人生だった
鶯なんぞに言わせてたまるか
それを言って許されるのは
私だけだ
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ふらりと揺れる星の中で
あなたと私 踊るの
騒々しいしじまの中で
火星だけがぽかりと浮かぶ
柔らかな風が
シフォンの裾を撫でていく
水の香りが
ココニイルヨとささやく様
笑うあなたの唇の端
甘い言葉もなく
ただ瞳の中に惑星の青が
そう、青い故郷があるの
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何もない
2メートル四方にも満たない鉄の部屋の中
フロントガラスの向こうで電灯が僕を射す
黒い絵の具を薄く塗ったように
曇った夜空が広がる
時折聞こえる溝向こうの車の音
明日を引き連れて過去へと走る
ヘッドライトが右から左へ流れて
また消えた
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雪解けの水を掬って腕を立てれば
手首を通って肘先から垂れた
袖の中に生まれた小さな水溜り
徐々に滲み出ていずれ無くなる
目が覚めるような冷たさとはよく言ったもので
そうだ 私は確かに
狂うほどに愛していた
憎むほどに狂っていた
しかし 思い返せば総て馬鹿らしい
私は確かに愛していたはずなのだ あれほどの激情で
なのに 私は今
目が覚めるような冷たさとは よく言ったもので
腕を濡らす水が清々しくて
どうしてか こんなに切ない
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ねぇ マチルダ
きみの笑顔が 今日の日を鮮やかに 染め替えるよ
白く濁った目は総ての景色をぼやかしてしまうけど
きみが笑ってくれる日は
なんだかくっきりとして見えたんだ
ねぇ マチルダ
きみの笑顔が 世界を鮮やかに 包み込むよ
悲しい事ばかりが耳に飛び込んでくる インターネットも 現実も
きみが笑ってくれる日は
距離を置いて息をつけたんだ
僕達は こんな時代に生まれたね
とても便利で とても豊かで きっととても恵まれてる そんな時代
知らないままではいられなくて たくさんのものを持て余して 疲れ切った そんな時代
ねぇ マチルダ
僕は今でも きみを探して時々泣くよ
街角に 道の向こうに 街路樹の影に
見慣れたワンピースが見えた気がして
走って近づくけど誰もいないんだ
ねぇ マチルダ
きみの笑顔が 僕の時間を鮮やかに 止めてしまったよ
ねぇ マチルダ
悲しいニュースは 今も流れてる
ねぇ マチルダ
ねぇ マチルダ
愛してたよ