詩人:善田 真琴 | [投票][得票][編集] |
いづれの頃か知らず、そのむかし業火の箒掃くが如くに天蓋破りて燃ゆる石くれ一つ大地に降り来たり、荒野の草莽焦がして、しうしう音立てつつ白煙立ち昇りき。
日の暮れて、秋風身に凍む峠道なれば、通ふ人影とて更になし。如何なる不思議の働きにか、ぐるりの冷たき霊気に触れたるにや、白煙治まり消えにし跡と覚しき辺りに人知れず星形なる青紫の花一輪、可憐に咲き居りけるとぞ。
さて折しも、追い剥ぎだに怖じ気て避くる荒涼たる山道を鈴の音木枯らしに乗せて登り来る、同行二人の旅の僧あり。草鞋踏み締め歩く先に何やら横たはりしを、気配に感じて指先にて軽く笠挙げ目を凝らせば、獣の屍にてあるらむ、大方骨ばかりに成り果てたる在りき。諸手合はせ、一通り低き声にて経を誦して後、辺り見回せば、寂しげに微笑む件の青紫なる花ありけり。是にも合掌し、手折りて屍の上に手向ければ、俄かに一陣の強き風吹き渡りて旅の僧よろめけど、辛うじて身を立て直し、ふと眼を遣れば、屍の刹那に変じて子犬となりて尾を打ち振り居るなり。旅の僧、甚く驚けど、仏の慈悲のかくなむ救け参らせにけむと思へば有難く、また手を合はせて拝みにけり。
然るのち僧と犬と前に後ろに主従連れ立ち去り行きし道端に、萎れ枯れ果て色を失ひし花一輪残されてあれど何時しか跡形もなく消え失せにけり。土に埋もれしか、天に翔りて再び光り瞬くか、いづれとも詳らかならねど、京へ帰る道すがらなれば、花の名は桔梗ならむとぞ戯れに語り伝へたるとかや。
帰郷とは
いづこへ参る
旅ならむ
尋ね聞かまし
星形の花
(詠み人知らず)