詩人:善田 真琴 | [投票][編集] |
初秋の蒼穹に、一筋の飛行機雲白く細く棚引く様を、一人の稚児眺め居りしが、ふと魔が差しにけむ、「落ちよ」と呟きぬ。然れど何事も無く、長閑なる秋空に百舌鳥一羽翔び去る許りなり。
さても明くる日。家内にて大人共言ひ騒ぐやうなるを、問ひ尋ぬれば、「昨日、飛行機の墜落して数多の人亡くなりぬれば」とぞ応ふる。稚児驚きて只管黙し居るを、「あな、心根優しき子なめり」とぐるりは受け止めにけれど、その日より稚児は貝となりぬ。
月日は百代の過客にして、光陰は矢の如く、幾星霜経たるにや、吉野の山に高名なる荒修行者ありて、名をば貝の行者と号するありけり。その唇は上下を針と糸にて縫ひて口開かず、その声を聞き知る者無し。
「件の稚児これなり。かくてもあられけるよ」と巷間に俗人どもの僻事弄び噂するやうなれど、「そらみつ大和の国は押し並べて、太古より言霊の幸ふ国なれば、謹み深きも是また本朝の美風・美徳なり」と年寄共の語りにきとぞ。
言霊の
幸ふ国の
もののふは
多くを語らぬ
大和魂