詩人:右色 | [投票][編集] |
きっと不幸なのは彼であって私ではない
私は彼を見つめる
彼は私を見ない
私が見ている限り
彼はいつだって笑っている
彼の周りの有象無象を笑わせている
私が覚えている限り
私は笑ったことはないし
私の周りには何も無い
彼は弱い人間だから
自分を嘘で塗り固め
他人に嘘をばら撒き
嘘だらけの世界で自分自身すら信じることが出来ない
私は少なくとも
自分の嘘で騙される程
弱くはないし
私は、昨日と今日と明日の三人の私を信頼している
彼にとって他人とは鏡のようなもので
他人を介してしか自分を見ることが出来ないくせに
自分の姿を見ることを恐れているし
自分が見ている自分の姿と
他人が見ている自分の姿が
少しでも違うことをもっとも恐れている
私にとって他人とは他人でしかない
「人」という文字が付いているから紛らわしいけど
私と他人は違う生き物だ
何よりも
ものの感じ方がまるで違う
だからこそ
違うからこそ、話していて楽しいと思えるし
何かが通じ合えば
嬉しいと思える
しかし彼は臆病であると同時に
とても優しい
例え、その優しさは最終的に彼自身に向かっているのだとしても
彼は電車で席を譲ることが出来るし
誰かが捨てていったゴミを拾うことだって出来る
そして私は怒りっぽい
気に食わなければ、叩くし、蹴るし、殴る
自分に対しても
他人に対しても
私はすぐに怒る
本気で生きているからだ
全力で生きているから余裕がない
真剣に生きているから
そうじゃない
「誰かに生かされている」と思い込んで
何かのペットみたいに生きているヤツを見ると
無性に腹が立つ
だから私は彼に言ってやった
「死んでるみたいに生きるな」
「私に失礼だ」
と
それでも彼は
教科書通りに回答するしか術が無かった
彼にとって世界は自分であり
自分と同じものしか認めることが出来ないし
理解が出来ない
だから彼はそう答えるしかなかった
「お前に俺の何が分かる!」
【Aに続く】