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右色の部屋


[113] 彼と私:私と彼 A
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分かる訳がない
私たちは違う生き物なんだ
それはもう
徹頭徹尾、違うものだ
だからこそ
知りたいと思えるし
だからこそ
一瞬でも通じ合えればそれだけで嬉しい

「それなら教えてくれ、あんたのことを」

彼は答えることが出来ない
彼の世界には言葉がない
彼の世界は彼から始まって彼で終わる
とどのつまり
何も説明する必要もなければ
話をすることだってない
今の今まで
彼が会話だと思い込んでいたのは
そこが
彼の世界であることの確認する作業でしかなかった
だから彼は
壊れたラジオのように
壊れたテレビのように
ただ繰り返すことしか出来ない

「どうせお前には何も分からない!」


私は決断した
私にとって
会話とはそういうことだし
私はいつだって本気だ

私は彼を殴った
それから
蹴り飛ばした
そして
キスをしてやった

彼は彼の世界を失った
だから泣いたのかもしれない
しかし
それが嬉しいから泣いたのか
悲しいから泣いたのか
それとも
別な何かだったのか
それは私にも分からない


しばらく泣いた後
彼は私を殴り返し
それから
やっぱり
キスをした

彼は泣き虫で臆病で嘘つきだけど
とても優しくて

私は怒りっぽくて、理屈っぽくいけど
真剣に生きていて

たぶん
それくらい違うから
そして
これからもどんどん違ってくるから

私と彼は

一緒にいるのだと思う


そして彼はある日
私に言った

「お前は不幸な女だ」と

続けて

「だからお前が好きだ」と

やっと自分の言葉を覚えたと思ったら
そんな可愛いことを言ってくれる

だから答えてやろう

「不幸なのは私ではなくお前だよ」と

だから続けてやろう

「だからお前が好きだ」と

2009/11/04 (Wed)

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