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カナリアの部屋


[123] 白濁
詩人:カナリア [投票][得票][編集]

それはそれは
慎しやかに営まれた
“殊”<コト> でございました

長年連れ添った貴方様の
永眠するお姿はなおも美しく

私めは黒い着物の袖口から指を滑らせ
ただただ
貴方様に愛撫するかの如く
乾いた頬に触れるのでした

冷え切った貴方様のそのお体に
この身重ねれば
私めもお傍に逝けるのでしょうか

貴方様の眠る棺<ハコ>に
重く硬い蓋が閉められた時
切なる想いは届かず
その道は閉ざされ
私めは独り
独りきりになってしまいました

煙に姿を変え
天に昇りゆく貴方様
天は白濁した湯の様な
悲しみの色をしております

貴方様の声が
まだ耳の奥に残っておりまして
最後に触れた貴方様の感触が
まだこの指に残っておりまして
貴方様と歩んできました長い長い道のりは
私めの心を揺さぶり
体の震えが止まりません

先立たれた貴方様
私めは貴方様を憎いと思うのでございます
先立たれた貴方様
私めは貴方様を卑怯と思うのでございます
そして何よりも
私めは貴方様を愛しいと
愛しいと
愛しいと
愛しいと
…思うのでございます

私めの生涯で
だた一人
旦那様であった
貴方様の“葬儀”<コト>は それはそれは
慎しやかに営まれた
貴方様の“最後幕引き”でございました

2006/07/25 (Tue)

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