詩人:桃鈴 | [投票][編集] |
どこまでも澄んだその人には
汚れなんてないと思っていた
全ての悩み,憤り弾いてしまうから
あんな表情で笑えるのだと
“苦シイ……”と言って一人刹那に泣いたその人に
計り知れない強さ,
儚なげな弱さを垣間見た
『全て奪ってしまいたい』
それは不埒な事ですか?
『それならばいっそ』と
汚したくなるのはこれは罪な事ですか?
美しく咲き乱れていた花は
その茎を折ってしまっても
けれどそう美しさの損なうことはありませんでした
『この手で殺めてしまいたい』
それは禁忌の想いですか?
だけど『この手で守りたい』
この矛盾をどうかき消せばいいのでしょう?
誰か教えて下さい。
空を舞う風の如く
何にも捕らわれる事ない人
それならばどうやって体温をあなたに伝えればいい?
瞬間に問う恐ろしさ“コノママハ続カナイ”
この身の朽ち果ててゆくがままに
無力な頭は
あなたでさえも忘れていってしまえるのでしょうか
天に願い星を待ち
その営みの中に消えるのでしょうか
どこまでも澄んだその人は
誰かの造り上げた“真実”を
それと知りつつも自らの信じた道を歩みました
後の世に問う本当の真実
あるいはそれさえも歪められているのかもしれない
それでも自らの信じた道を歩みました
どんなに罵られても
例え誰に罵られても
『全て奪ってしまいたい』
それは不埒な事ですか?
『この手で殺めてしまいたい』
それは禁忌の想いですか?
だけど『この手で守りたい』
相反する想いはどうすればいいでしょう
誰か教えてください。
詩人:桃鈴 | [投票][編集] |
〜taboo,最後の涙〜
携えた思い出が少なければ少ないほど
歩んだ道のりが刹那な程,
再び相目見える瞬間を望む念は強く
忍ぶことさえ忘れる熱情に
それでも離れること出来ない
失う事慣れ親しんだ暮らしの中で
初めて異を唱えた
“失くしたくない”と
幾重にも重なって行く現実を
遠い日々が支配する
一度きり,唯一度きり
肩を並べて歩んだことがあった
袖の擦り合う音に自然呼吸を失い
何時までたっても苦しかった
触れ合う事の許されぬ運命(サダメ)に
何故これ程までに捕らわれるのか
強い力で引き留めようにも
未熟故に周りに阻まれ
“幾年か後にでも
再び相目見える事を願って”
あなたは去った
愛しい人よ“心さえ通っていれば”,
そんな理屈を時代が許さなかった
互いに育ちし環境の差が許さなかった
愛しい人よそれでも我が身は
間接的にでも
あなたを支える道を選び
例えばそれが今の世で
咎められるべき道であっても
悔やまない
寧ろ喜んでその罪に身を投じるだろう
引き離された瞬間から
“再び相目見える”事はないと知っていても
あの日,空は青くて
あなたに逢えるまで笑っていようと決めた
あなたは
何時もと違わぬ笑顔で
最後に一滴(ヒトシズク)堪えきれぬ
涙を誘い,
離れゆくその瞳に
気付かれることの無いよう
滴を拭わず笑みを湛えた
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声を張り上げてただ,
『助けて』と泣けばいい
救い出す手だてを
僕が切り開いていこう
“そんな事出来ないよ
世界はひたすらに
壊れゆく
狂いゆく
奪いゆく
周りゆく
進みゆく
迷いゆく
一体何が出来る?”
喋り方を忘れたみたいだ
蝋人形の様に能面で
生気を感じられない
頬伝う涙さえなければ
僕はそれが君だなんて信じない
涙を流すぐらいなら
僕を『頼ってみてよ』
君の為の力を
足りない分は生み出すから
“そんな事出来ないよ
世界はもう独りだけ
暗すぎて
張り裂けて
溺れそう
あなたを受け入れる隙間は
ごめん,
捻り出せないよ”
顔色一つ変えないで
涙は止まらないのに
今つなぎ止めないと
君は消えてしまいそうだ
『そのまま何も言わなくてもいいよ』
腕が痺れ出す位強い力で
僕は君を抱き締める
“そんな事しないでよ
まだ癒えてもいないのに
今温もりを覚えたら
弱い心は確実に
これからも
温もりを求めてしまう
これ以上弱くはなりたくないよ”
微かに震えだした君は
相変わらず声もなく泣いて
それでもその瞳には
覗き込む僕が映る
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辛い時に
泣けないで
想いを飲み込む
大人って
こんなに
苦しいものなの?
助けて欲しい時に
助けてくれたのは
あなたじゃない
それどころか
殆ど自力で乗り越えた
『助けて助けて助けて』
あなたにはきっと
その声さえも
疲れを助長させるだけの
雑音でしかなかった?
今更どうして
『お前,変わったな』
なんて
変わりたくて変わった訳じゃない
強さを身に付けていかなければ
私は生きてこれなかった
ただ狂うしかなかったよ
何度も伸ばした手を
掴まなかったのはあなたの方だよ
何時だって一人で泣いて
何時だって一人で涙拭いて
何時だって一人で歩き出した
何時だって傍にいるあなたには
もう助けを求めようと思えない
思い出せない程前から
気が付けば泣けなくなって
けれどそれは
苦しくないんじゃなくて
一人泣くことに
堪えきれず
溜め込んでいるだけなんだよ
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君という花,僕という水。
月明かりの下で,君という美しい蕾が開きだしました。
僕は君を咲かせるために土の中に潜り込み,君に吸い上げられるのを待っています。
そして君はある日,空を自由に舞う蝶に憧れを抱くのです。
白に限りなく近い薄紅色の君は,あの蝶の煌びやかな色彩に恋をしたのです。
…けれど蝶は,1ヶ所に留まることを知りません。
新たな蜜を求め羽ばたきを止めないのです。
君は僕を吸い上げることを拒み始めました。
君は枯れてしまうのに。
“それでもいいの,これでいつか風が私を乗せてくれるわ”
……君は細くなった茎で笑うようにふわふわと風になびいています。
“そして私も空を舞えるでしょう?”
拒まれた僕は,何時までもこの場には居られません。
太陽に焼かれ空へと還って逝くのです。
…出来れば君のその生命を長らえる力となりたかったけれど,
僕は空へと還るのです。
―――でも僕は約束しよう。
いつの日にか僕はまた,君に降る雨の雫となるから,どうかそれまで。君は君でいてください。
例えばそれまでに何度枯れてしまったとしても,
その生命を種の中に宿し,僕が君に届くのを待っていてください。
その時こそ君に息吹を与え咲かせる力となり,再び空を自由に舞う鮮やかな蝶に君が出逢えるよう,
僕は君の蜜になりましょう。
“色”を持たない僕は君の儚げな白や淡い薄紅が,とてもとても大好きなのです。